出発前、リビングで夫と写真を撮る。旅の記録の始まり。自分の顔が小さくなるように、私の顔が相対的に大きく写るように、彼は後ろに退く。ぽかぽか殴って撮りなおし。彼はでれでれした表情だ。
途中の駅。電車から駆け下りた女子高生がポカリスエットのCMみたいだった。青い空の下、ミニ扇風機をマイク代わりに歌っているよう。同級生が彼女を追いかける。
横に座っている彼の肩をたたく。慣れているのでこっちを向かない。ちっ。ほっぺを刺す。
混雑したホームでいろはすを買って薬を飲む。350mlの小さなボトルを手のひらに載せ、彼の注意を引く。新幹線到着の風と音楽に合わせて、「いろはす、おみず、おいしい!」と笑顔で言ってみる。「落とすぞ」と言われる。私にポカリスエットのCMの話は来ない。
目的地に着く。「忘れものするなよ」と言われたので、「私を忘れるなよ」と返した。