僕たちは別れた。たくさんの夢を語り合ったけど、始まりに戻ってしまった。君が夢をひとつくらい叶えているといいな。同じノリでいたけど、進む方向は正反対だった。もう電話は通じない。君について知ってることに何の意味もない。君は僕について何を知ってた? アイスランドに行きたかったことは?
君が行きたい場所、どこにでも行こう。よりを戻すにはちょうどいい。でも、電話してもツーツーツーと聞こえるだけで、君はそこにいない。
僕がアイスランドに行きたかったこと、知ってた? やっと行くよ。君なしでね。
これはイタリアのバンド Pinguini Tattici Nucleari の、Islandaという曲の歌詞をざっとまとめたもの。メロディもいいのだけど、歌い出しがおもしろい。
Ci siamo separati
Come due pianeti senza gravità
Come amici dopo l’università
Sì, come due fratelli per l’eredità
Ci siamo confidati mille sogni
Ed ora siamo a punto e a capo
A raccontarli a gente a cui non frega un cazzo
Spero tu almeno uno l’abbia realizzato (ah no?)– Google翻訳 –
We separated
Like two planets without gravity
Like friends after college
Yes, like two brothers for the inheritance
We confided a thousand dreams
And now we’re back to square one
Telling them to people who don’t give a shit
I hope you’ve made at least one come true (oh no?)
別れた様子を比喩で表現している。
「重力のない二つの惑星のように」
星や宇宙や自然のものに例えるってよくある。
「大学を出たあとの友だちのように」
いつも一緒にいたのに、卒業後に疎遠になった人はたくさんいる。
「遺産を相続する兄弟のように」
遺産を相続する兄弟のように。
遺産を相続する兄弟のように⁉
歌詞の文脈的に、無関心になった末に別れたようなので、財産争いでもめたというよりは、遺産が入るまではそれなりに連絡を取っていたが、ようやく手に入ると関係を保っておく理由がなくなり、冷ややかに縁が切れた感じだろうか。
私は比喩が好きで、卒論もそれで書いたくらいだから、この「遺産を相続する兄弟のように」にはたまげた。ここに引用はしてないけど、「僕はキャプテン翼で、君はセーラームーンだった。同じノリでいたけど、向かう先は違ってた」ともある。グラウンドでサッカーボールを蹴っているのと、宇宙関係のファンタジーでは確かに向かう先が違う。ちなみにバンド名は、直訳が「戦術核ペンギン」で恐ろしいのだが、アルコール度数が30度を超えるスコットランドのビールから来ているらしい。比喩を見つけるのが得意な人たちなのかもしれない。
AとBの要素がそっくりな場合、その類似は見つけやすく、表現もしやすい。ただ、直接的になりがちで、おもしろみに欠ける。AとBの要素が共通点を持たなさそうな場合、そしてその距離が長い分、連想が生じてふたつを結びつけたときの力は強い。
私の恋は実って、結婚した。私はそれを比喩で表現することよりも、関係や生活の中で連想や比喩を使うのが好きだ。私たちは別々の人間で、夢中になるものや抱える悩みがまったく違う。つなげるものは抽象的で、目に見えなくて、気づくのに集中力が必要で、保つのに敬意と緊張が必要だ。
「君の好きなものは、私には難しくてわからないが、私が好きで、君が難しいと言うあれと似ているところがあるね」
「これは直截的に言えばスーパーネガティブだけど、ためしに〇〇のようだと考えてみよう。するとどうだ、おたがいが受け入れられる形になる」
いつかどこかで「遺産を相続する兄弟のように」という表現を使いたいと思いながら、今日も彼らの新しいアルバムを聴く。