おやつのゼリーのパッケージがリスだった。りんご味だった。しいたけ占いを思い出す。
牡羊座って、「金属バットを持ったリス」みたいなところがあって、「かわいい」とか「○○さんすごいな」ってちゃんと言われて、ちゃんと評価されているときは「エへヘ。じゃあもっとどんぐりあげるね」ってやってくれるけど、敬意がない扱いを受けると金属バットでいろいろ破壊し始めます。
しいたけ占い 2017年8月26日のXより
これを見つけて話したとき、夫は「そのとおりだ」と爆笑した。長年お世話になっている美容師のUさんに話したら、私の髪からハサミを離してうずくまり、笑いをこらえていた。
私は、おかしいと思ったらおかしいと言う性格だ。嫌なことは嫌だと言う。論理の矛盾や抑圧に怒る。私の金属バットはたぶん頭。抽象と具体の行き来が速く、パターン認識や論理、データ分析、言語化に強い。問題提起、議論、改善の材料をすぐに出せる。そういうことを必要とされていない場では身を引いて、それ以降関わらない。
最近、アイメイクができなくなった。どうも目の近くのメイクと目の相性が悪く、ドライアイやめまいの原因になる。だからチークとリップメインのメイクにしている。小田切ヒロのYouTubeでチークの入れ方を見た。彼は「マイナス5歳バージョン」と「好印象バージョン」のふたつを紹介していた。コメント欄では「好印象バージョン」が人気。アイメイクなしの私に「好印象バージョン」、つまり今の年齢で素敵に見えるチークの入れ方はなんか変だった。私はマイナス5歳に見えたいわけではないけれど、「マイナス5歳バージョン」の自分のほうが好きだったので、そっちにした。
席につき、鏡越しに「というわけで、わりとナチュラルな、幼い印象の最近です」とUさんに言った。いつものショートボブを、少しアレンジしようという話になった。
Uさんは「まあ、ギャップは大事ですよ」と言った。ギャップ。それはつまり、「見た目は、かわいらしい」の意味だ。私の中身を知っているからこその言葉だ。
Uさんは「金属バットを持ったリス」の話を、「チェーンソーを持ったリス」として覚えている。たまに話の流れで、「だって、えーとほら、なんだっけ、紺さんはチェーンソーを持ったリスですもんね」と言う。私がいくら訂正しても、凶暴化されたイメージが書き換えられない。
雇われ美容師さんだった頃に出会って、独立に合わせてついていって、私が金属バットの話をしてから何年も経った。普段人に見せている姿と、本来の姿と、なりたい姿をぜんぶ共有できる人は多くない。会えてよかったと、訪れるたびに思う。
「Uさん、ふだんドラマ見ますか?『ホットスポット』がおもしろかったです。バカリズム脚本の。宇宙人の話なんですけど、周りの人たちから浮かずに馴染んでるんです。たとえばファミレスで、自分が宇宙人だと勇気を出して告白したときに、相手が『へえ・・・宇宙人。そっか。で、何食べる?』って返すような。宇宙人っていう属性を特別視しない。話してて気づいたんですけど、たぶんUさん、お客さんに宇宙人だって告白されても『あーそうなんですね。今日はどんな髪にします?』って言いそうですよね」
「たしかに(笑)。ぼく、そういうの気にしないですね」
帰り際、Uさんは「今日のメイク似合ってます。表情が自然です」と言ってくれた。私は元気に最敬礼して、「次回もまたよろしくお願いします」と言って帰った。
