レシピは同じなのに、同じ味にならないことがある。たいていの料理は「まあいいか」とごまかしてきた。でも豚のしょうが焼きだけは許せなかった。中学生のとき、ケンタロウさんのレシピで初めて作ったときの感動が、週1くらいの頻度でばんばん再現されなければならない。思いも材料もあるのに、大学を卒業して以来なぜか同じものを作れない。バラ肉よりもロースを好むまで年月が過ぎてしまった。
変化のきっかけは物価高騰だった。あれもこれも高い。野菜や魚や肉は買わざるをえないので、調味料を見なおした。「ん? 私、愛知の調味料で育ってないじゃん。実家になかったじゃん」
社会人になって名古屋に来て、色気を出して買い始めたのが三河みりん。色が濃く、四角いビンに入っていて、お高い。「もしかしたらこれが原因かもしらん」と、なくなったタイミングを見計らい、黄色くて小さなボトルの本みりんを買った。
ごま油で肉を焼く。しょうゆ、酒、水、砂糖、オイスターソース、白ごま、おろししょうが、そして黄色くて安いみりんを入れて絡める。長いこと会えずにいたしょうが焼きと再会した。千切りキャベツとマヨネーズが奏でるハーモニーは、まるで私たちを祝ってくれているかのようだった。料理家さんの本を読むと、上質な調味料を使う人と手軽に買えるものをすすめる人に分かれる。私は後者の弟子につく。