書斎にこだわり始めたのは、自営業になってからだ。
仕事をしようが、仕事を終えて勉強や読書をしようが、基本的に同じ場所にいるので、長く居心地のよいものを集めようと思った。
私たち夫婦の価値観では、持ち家を建てることはないので、密やかな、自分だけの城である。
酒を飲んで暴れる父と、ヒステリックに泣き叫ぶ母がいた家の私の部屋に、はじめは境界がなかった。
勉強していても寝ていても、彼らは否応なしに入ってきた。
鍵を閉めていても、コインでこじ開けて入ってくる。
中学に入って、ホームセンターに行き、追加の鍵を買った。
コインで開けられなくなると、今度はドンドンと強く扉を叩かれるようになった。
私の部屋はシェルターだった。
同棲を始めて借りた今の家は、部屋に鍵がない。
夫はたまにひょっこり入ってくるし、私も彼の部屋に行くが、「ちょっと今いそがしい」と言えば退散を求めていい。
あとから「さっきはごめんね」と話す。
人との暮らしで安心感を得ることに少しずつ慣れていき、好きなものを選びたい欲が出てきた。
昔は「鍵があればいい」と思っていたのに。
今や「好きな色味でものを選びたい」と思う。
私の存在や意志の肯定は、反逆であり、復讐であり、自分で人生をつくる宣誓である。
物の選びかたは、彼に教わった。
長く使えるものを選ぶ。
価格や広告やブランドに惑わされない。
たとえば、アングルポイズのランプのこと。
「通常タイプは高いので、LEDのミニタイプにする」と彼に言った。
彼は「そのタイプは明かりの部分を交換できないよ。長くは使えない」と言った。
高くても、交換可能なほうを選んだ。
そういう、長く使えるように厳選したものたちが部屋にたくさんある。
夜、デスクランプだけつけて、アロマウッドに好きな香りのオイルをたらし、ソファに腰かけてぼーっとするのが好きだ。
毎日変わらない風景が愛おしい。