「この時間、ぼくたちは透明人間になる」

夕方、コンビニでビールを買った帰りに夫が言った。
文学的な響きにドキッとして、続く言葉を待った。
「車を運転する人からは、いちばん人が見えにくくなる時間帯なんだよ」
「日中は見える。暗くなれば気をつける。薄暗い時間帯が危ない」
ああなるほど、そっか、それで透明人間ね。
期待してたのと違った。

空が暗くなった。
彼はスマホをぶんぶんと振って、懐中電灯を起動した。
私たちの足もとを照らしてくれる。
ぶんぶんで起動するなんてすごい、と言ったら、いかにそのスマホがすごいかを話し始めた。
左手にはスーパーで買い込んだ荷物を持ったまま。

私はあまり、文章単位で美しいと思うとか、ノートに記録しておくことをしない。
誰が誰に対して、どういう文脈で伝えたかが重要で、部分的な切り取りに意味を感じない。
今日私に話そうと思ってくれたこと、話してくれたこと、照らしてくれたこと、荷物を持ってくれたこと、全部をまとめて記憶した。

君といると、世界に彩りが生まれる気がするよ。
銀色のラメのマニキュアみたいに、キラキラしてる。
そう言ったら、「ぼくの好みの色じゃない」とかなんとか返してきて、つくづく、ムードのある会話が成り立たないなと思った。