水に浸した繊維をすくいあげ、少しずつ和紙を作っているような日々だった。暑いから、ずっと水の中にいたい。
院進の目標を消した。ひとまず日本の院はもうない。「邪悪だ」と感じる場面があった。「とは言っても」といいところ探しを続けた結果、ようやく「いや、やっぱり、ない」に至ったので、本当に進学したかったんだと思った。頭が「さてさて、次ー!」と足早に通り過ぎようとした。危ない気がした。1年を振り向けていた目標だった。そこから離れるのだ。数週間使おう。
決めてからしばらく、止まっていた。ノートを開かなかった。変わりたいと急ぐ自分を抑える。それで±ゼロくらいになるのがちょうどよいのかもしれない。悲しさと、悔しさと、入る前に気づけた安心と、何と言っていいかわからない気持ち。ぐちゃぐちゃしたものを言葉にせずにいた。近寄りすぎず、離れすぎず、ぼーっと見つめていた。
混濁した液体に木枠を入れて揺り動かす。紙料が集まって、薄い層になる。それを何度か繰り返すと、ざらついていたものは溶けて、やりたいことの本質だけが残った。水気を切って乾かす。新しい紙。指でつまんで太陽にかざす。光が透き通る。
おいしいビールを飲んだ。黒トリュフ風味の高級なポテチを食べた。美術展の図録を買った。久石譲の曲を聴いた。ひつまぶしを作って食べて昼寝した。新調したボールペンの発送連絡が届いた。「そろそろ行っていいよ」と、自分にそっと許可した。