昔々、くまだった人がいた。XがまだTwitterだったころの話。白いくまのぬいぐるみのアイコンのその人は、夏は期間限定でアイコンを茶色のくまに変えていた。つぶやいていたのはとりとめのないことで、かわいいくま設定だからか、ハイテンションで明るかった。一生懸命生きているのが、独特の言葉遣いからでもうかがえた。
そんなくまがうっすら落ちこんでいる日は、いつもの明るさとのコントラストで余計に暗く見えた。というか、いつもは明るさでかなりぎりぎりまで隠してたのかもしれない。
DMで話しかけると返信があった。白いくまの文体とは全然違う、常温の落ち着いた文章だった。くまも人間だったんだねと思った。当たり前なんだけど。すごく人間だった。
あれこれ長文でやりとりしたあと、Twitterからいなくなるということでメアドを交換した。それから、気ままなメール交換を続けている。以前、彼女はお手紙を書いてみたいと言っていたが、そんな牧歌的なこと、我々には不可能だと思う。あの長文メールの交換に慣れきった関係が、数枚の紙のお手紙に納まるわけがない。毎回ぶあついレターパックを送り合うことになりそう。
大学院に行かないと決めて、落ち込んで、ぼーっとして、好きなものを食べて、掃除して、本を買って、気を抜いて薄着で寝て風邪を引いた。よくなったころにメールしたら、すぐに返信があった。悲しいことがあった日だったけど、私からメールが来てうれしかった、ありがとうと書かれてあった。メールの件名は「四捨五入で、はぴ」だった。
うまくいかないこともあるけれど、楽しかったことやうれしかったことをたくさんかき集めれば集めるほど、しゅんとする部分の比率は減って、「四捨五入したらハッピーのほうが多い」になるんだろうな。くまから人間になっても、毎日を懸命に生きているのが言葉から伝わってきて、メールを一気に読めなかった。
涼しい夏を。穏やかな夏を。できるだけはぴねすだらけの、よくばりな夏を。