ラッシュアワーが苦手だから、東京にいたときは、早く起きるか大学の近くに住むかしていた。会社員時代も会社の近場に住んでいた。私は今月から大学生で、今期は1限の授業を取っている。夫と暮らしているので、あまりに早く寝るのも早く起きるのもよくない。朝早くにごそごそ音がするのは嫌だろうし。
事務手続きを済ませるついでに、前もって通学のシミュレーションをしてみることにした。9時過ぎからの1限に、余裕をもって間に合うようにしたい。早すぎず、遅すぎず。いいぐあいの時間を探す。
7時半に家を出てバス停に向かう。横断歩道で待っている間に、目の前をバスが通過した。あちゃー。時刻表を見ると、次のバスはすぐ来るようだった。さっきのバスは2分遅れ。思っていたより渋滞していない。よし。スピッツの「楓」を聴こうと音楽プレイヤーをいじっていたらバスが来た。時間がゆっくり過ぎるようで、意外とせわしない。
8時過ぎの地下鉄は日中よりも混んでいたけれど、東京のラッシュアワーに比べたらかわいい。私の通学ルートに関しては、ぎゅうぎゅうにならない。人と人のあいだにじゅうぶんな空間がある。乗る駅と降りる駅の開くドアが同じで、地味にうれしい。名古屋には、エスカレーターを立ち止まって利用しなければならないという条例がある。調査によると、条例施行後に立ち止まって乗る人が増え、2024年度は90%を超えたらしい。そうは言ってもラッシュアワー。なんだかんだで歩いちゃうんでしょ。と思っていたら、みなさん静かに2列で乗っていた。それなりに利用者の多い駅なのに。名古屋は何もない、とよく言われるけれど、こういうところは住みやすい。
駅を出て、大学まで歩く。緑の木々が多くて、森の中を歩いているみたいだ。夏は永遠の長さに感じた道も、涼しくなれば短く思える。心地よいとは言えないまでも、ストレスのない通学エクスペリエンスで、森へ行く。2回目の大学生なので、この機会がいかにありがたいかを噛みしめる。
学生証をもらい、入学手続きでお世話になった教務の方にお礼を言い、健康診断結果のコピーを提出し、授業が行われる予定の教室を確認する。どれも建物が別々なので、キャンパスを歩き回る。1限に駆け込む学生たち、教科書販売に並ぶ学生たちとすれ違う。私は彼らを若いなあと思うから、きっと彼らは私を若くないと思うはず。だけど一緒の空間で学ぶ。不思議だ。
ぴかぴかの学生証をぴっとかざして図書館に入った。岩波文庫が揃っている棚ににやける。学部の編成で縮小した分野の本もたくさんある。最新の本も定期的に入っていそう。空気の悪いところ、いいところ、自習スペース、コピー機、エレベーター、お手洗い、避難経路を確認する。居心地がよくて気に入った。
帰り道。ちょうど2限が始まる前の時間帯。右手にスマホ、左手に日傘を持って下を向きながら歩いている学生たちが、狭い道いっぱいに広がっていた。それがたいへん長い列をなしている。そういえば、通学路にはいたるところにマナー喚起のプレートが出ていた。こういうことね。ここは片側を空けるべきところよ。道を譲ってもくれない人たちの波を、息を止めてすばやく逆行した。ようやく抜けたところで、息を吐き、秋風を吸い込んだ。これからここでがんばるんだ。