「じゃあ次はラブストーリーに取り組みましょう」
クリエイティブライティングの先生とは、関係を築いている最中だ。海賊の話を英語で書いたら、半分くらいは自分らしかったけれど、半分はぎこちなく、言葉を使いこなせない不満を感じた。先生が “Show, don’t tell”(「説明するのではなく、見せる」という、創作の基本のひとつ)の話をしてくれたときに、「それ、たぶん日本語だとめっちゃやってる気がする」と言ったところ、「え!既に書いてあるものないの?読ませて!そこから始めましょう」と言われた。そこで「ふたりでごはんを」の英語バージョン、”MEALS FOR TWO”を書くことになったのだ。
翻訳の初心者ではないし、オリジナルの作者なので、直訳はしない。でも説明しすぎはいやだ。日本語の空気感も残したい。そこで出した第1稿は、細かい英文法・単語のミスがいくつかと、「何を言ってるの?」「なぜ?」という大きめの指摘3つを受けて戻ってきた。”Show, don’t tell”には、「説明しない」も含まれる。だけど、説明しなさすぎるのはよろしくない。大きめの指摘は説明が足りないところだった。日本語の感覚だと、そこの加筆は説明しすぎのように思えた。でも加筆しないと伝わらないので加筆した。”Show, don’t tell”の感覚が少し違うのかもしれないなと、勉強になった。
第2稿の修正はなく、「”Show, don’t tell”のエキスパートね。彼が食べられない理由について何も言ってないのがいい」と言われた。たしかにそこも”Show, don’t tell”。私の文章をいくつか読んでくれた彼女は、私の文章の”subtlety”を褒めてくれた。繊細さ、とらえにくさ、緻密さ、ほのかな感じ、なんとも言い難い感じといった訳がつく単語。自分の日本語の文章に対してそう思っていたので、英語でも伝わるものなんだなと、ちょっとばかしニュアンスが変わったとて残るんだなと、彼女の話を静かに聴いていた。
「こんなラブストーリーを書けるなら、今度はこれをやりましょう」と言われて見せてもらったのが、New York Times(NYT)の人気コーナー “Tiny Love Stories”(ちっちゃなラブストーリー)だった。読者が書いた100語以内のラブストーリーがNYTに載る。あたりまえだけど、ラブストーリーといっても、”romantic”(恋愛に関する、性愛の)だけではない。サンプルで読んだ、”New Announcement, New Name, Still Ours”が印象的だった。
New Announcement, New Name, Still Ours
When you were born, we sent announcements — name, weight, date — engraved on thick white cards with pale pink stripes and polka dots. “It’s a girl,” we said. We were thrilled. Now, 16 years later, so much is new. The pink was wrong. The name was too. This time, we know. It’s a boy. There will be no pastel stationery. This time, we are telling everyone, face to face. He’s ours. — Maria Blackburn(拙訳)
新しいおしらせ、新しい名前、変わらず私たちの子
あなたが生まれたとき、私たちは名前、体重、誕生日をカードに印刷して送った。薄いピンクのストライプと水玉模様のついた厚めの白いカード。私たちは「女の子です」と書いた。わくわくしていた。16年経った今、何もかもが新しい。ピンクにしたのは間違っていた。名前もそう。今回はわかってる。男の子よ。パステルカラーの便箋は使わない。今回はみんなに直接会って伝える。彼は私たちの子なのって。―マリア・ブラックバーン
Tiny Love Storiesの創作教育用PDF:
https://int.nyt.com/data/documenttools/teaching-with-tiny-love-stories-pdf/753c41721cde1b10/full.pdf
Tiny Love Storiesの詳細や書き方など:
https://www.nytimes.com/2021/02/08/learning/writing-narratives-with-tiny-love-stories.html
ペットへの愛情も、物事への愛着も、たまに見かけるけど名前は知らない人へのささやかな心配りも、全部ラブストーリーになる。世界の広さに、私は頭がぱっかーんと開いた気持ちになった。これに取り組むの、とても楽しそう!
先生は「紺が長いラブストーリーを書けるのはわかったわ。今度は短いやつね。Less is more(少なければ少ないほど効果は増すという定型句)」と言った。
いつか購読したいと思っていたNew York Times。大学の電子ジャーナルで全部読めると知ったときのうれしさったら。検索したら、読み切れないほどの、たくさんのラブストーリーが出てきた。授業と個別指導とこの購読許可で、大学に支払った研修料のもとが十分に取れてしまうよ。
今日このエッセイを書く前に、ひとつ、ちっちゃなラブストーリーを書いてみた。必要最低限の表現にしたのに、180語になってしまった。全部必要だと思っていたところから削る。かつおぶしみたいにうすく、うすく、少しずつ削る。私はいつも、観察者のような立場と距離感で、静かな文章を書いてしまう。よいところでもあり、悪いところでもあり。でも嫌いじゃない。冒険や実験はしてみたいが。まあ1作目だしと思い、いつものように落ち着けることにした。ちょうど100語。ロマンティックラブストーリーではないラブストーリーが書けた。
来週までに、あと2~4作書く予定。100語が表現できるのはほんの少しのこと。ほんの少しのきらめきが、日常にあふれていて、何を切り取ろうか迷う。
