雪かき

snow under
直訳:~の下の雪
意味:雪で埋める、(数量で)圧倒する、(選挙などで)圧勝する

今学期の授業がすべて終わり、指導教官とメールのやりとりの流れで、「(僕が授業で教えた) “multiple identities” って日本語で何て表現するの」と聞かれた。時期的に来年度のシラバスを作っているみたいで、質問というより相談っぽかった。彼が授業でさらっと伝えていたから、なんとなく、学生の耳をさらっと流れたように感じたやつだった。たぶん、日本語に訳すだけじゃだめだぜ、先生。深い考えなのに、重要なのに、そう聞こえない。それをわかってない軽い質問なのか、わかったうえでの重めの質問なのか。わからないのでいくつかの視点を入れた、長めの返事をした。

「え、軽く聞いたわ、でも軽く話しちゃいけんってわかったわ、思ってたんより詳しい回答ありがとう、あとでよく読む」みたいな主旨のメールが来た。 “I’m snowed under with work right now.” と添えられていた。仕事が雪のように降り積もって身動きが取れない、仕事に忙殺されているという意味だ。雪に埋もれてるっておもしろいな(ひとごと)。補足情報を含めた返事の冒頭に “snow” と書いた。これも雪です、あとで読んで、の意味で。

10日後、エッセイの骨子を提出した。「風邪引いたので返信遅れる」と返事が来た。ああ。雪に埋もれて冷えたんですね。シラバス、採点、入試の繁忙期。私のことなど後回しにしてくだせえ、全然急いでないっす、と書いて、敬具で「早く良くなる魔法の呪文」を送った。

日本各地に大雪が降った日、先生から骨子へのフィードバックが届いた。ありがたや。「おおむねオッケー、パラグラフライティングの型を守れよ、読むの楽しみ、タイトルは変えて」という感じ。

春休み、しっかり勉強して書きます。その前に、今日は選挙に行きます。人権がなくならないように。もっと認められるように。雪かき、がんばってください、と返した。私たちの住む街に、雪は積もっていなかったのに。夜、氷のような風の中、投票に行った。先生はこの国の選挙権を持っていない。彼が公にしているアイデンティティのひとつは、彼の祖国で長年、違法だった。

開票速報。翌朝の確定議席。圧勝。

雪が積もる。春が来ても溶けなさそうなもの。どこをどういうふうにがんばれば、雪かきが終わるんだろう。