
Three or more, that is the question.
3人か、もっとか。それが問題だ。
第1幕
第1場
木曜日。18時。妻は台所で煮物を作っている。夫から妻にLINEが届く。
夫のLINE「はむれつ」
妻「(はむかつ?ん?・・・・・・ああ、ハムレット)」
第2場
木曜日。19時。アパートのリビング。夫妻、夕食を食べながら話している。
妻「チケット、取ってくれてありがとう」
夫「うむ」
妻「いい席だね」
夫「さすがぼく」
第3場
金曜日。文学的教養があるエンジニアに憧れるが、原作は読みたくない夫と、そんな夫と共通の趣味が観劇と言っていいものかとは思いつつ、貴重な接点を逃すまいと、古典についてはあらすじと相関図を事前に教える妻。
妻「えーっとね、シェイクスピアの4大悲劇のひとつだよ。ハムレット、オセロー、リア王、マクベス。マクベスは去年観たやつ」
夫「むずかしかった」
妻、相関図のメモを夫に見せる。主要人物に下線を引く。
妻「ざっくり言うと、ほぼ全員死ぬ」
第2幕
土曜日。ナショナルシアターライブ「ハムレット」は、朝9時35分開演。夫妻、電車で名古屋駅へ向かう。先頭車の隅の席に、太陽の光が広がる。妻、松岡和子訳、『シェイクスピア全集1 ハムレット』の文庫、264から265ページ、すなわち第5幕第2場を開いている。
妻「見て。ここ。王妃、『死ぬ』。ハムレット、『王を刺す』。『王は死ぬ』。レアティーズも『死ぬ』。テンポよくいっぺんにだよ。くーっ!」
夫、酔うので本を見られないが話は聞いている。スピード感にさすがに笑う。
第3幕
第1場
映画館で発券後、開場待ち。妻、待ち合いスペースで、相関図メモを広げる。夫、「さてさて。つきあってやるか」という顔をするが、妻に事前説明を要求したのも、話を真面目に聞かないと困るのも彼自身である。登場人物が4人以上の芝居は混乱しやすい。
妻「ガートルード、ハムレットの母親。ハムレットの父親は幽霊として出てくる。ハムレット、主人公。クローディアス、ハムレットの父親の弟、つまりハムレットの叔父。ハムレットの父親を殺して、ガートルードと再婚。ポローニアス、大臣。その息子がレアティーズ、娘がオフィーリア。ホレイショーはハムレットの親友。オッケー?」
夫「おっけい」
妻「じゃあ、レアティーズは?」
夫「しぬ」
妻、吹き出す。
妻「クローディアスは?」
夫「しぬ」
妻「いや、他になんかあるやろ」
夫「わるいやつ」
妻「せやな」
妻、スパイ・ファミリーのロイド・フォージャーが、アーニャ・フォージャーに何かを教える時の気持ちを少し理解する。
妻「ハムレットの親友は?」
夫「しなない」
妻「名前は?」
夫「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと。ほれいしょ!」
妻「(じゃがいもみたいだな)」
第2場
開演後、しばらくしたあと。夫の腹が鳴る。
夫の腹「ぐーーーーーーぅっ」
妻、夫の肩をつつく。
第3場
15分の休憩時間。
妻「鳴ったね」
夫、照れくさそうに笑う。
第4場
舞台が再開してしばらくしたあと、妻の腹が鳴る。
妻の腹「ぐーーーーーーぅっ」
夫、妻の肩をつつかない。
第5場
終演。妻、夫が無事についていったか、理解できたか心配そうにする。
妻「どうだった?」
夫「うん」
妻「うん?」
夫「長いね」
妻「うん」
夫「英語が難しいね」
妻「うん」
夫「うん」
妻「以上?」
夫「うん」
妻「予習したのに?」
夫「うん」
妻「・・・・・・残りは沈黙!」
