
スマホがピコンピコンピコンと鳴って起きる。時計を見ると朝5時。何事かと焦る。LINEを開いてほっとする。最近いろんなことがあったんですという、ニコニコの写真とメッセージ、フロムノルウェー。
会話に応じると、「え、起きてる?」と来た。あなたのせいで起きたわ。でも目が覚めてよかった、ちょうどいい。あちらは1日が終わる時間、こちらは始まる時間。
彼女が留学に行って1ヵ月になる。私たちは、出会ってまだ1年経ってない。大学の授業前、トイレで何気なく挨拶したら、「話してみたかったんです」と返ってきて、以来1クォーターぶん、いっしょに授業を受けた。テスト対策を手伝った。テストが終わって、ランチの約束が2回流れた。「風邪」と言っていた。連絡がないまましばらく経ち、別の授業の休憩時間、トイレで偶然会った。「おぅわ、紺さん!!」と驚いていた。私は、メイク直ししていた彼女の友人に、ひそひそと声をかけた。この人、私に近づいてきたのは単位目的じゃないって言ってたんですよ、でもね、テスト終わってから連絡なくて・・・。鏡越しに目が合った彼女は口を大きく開けて爆笑している。友人のほうは、「あー、そうなんですよ」とにやにや乗ってくる。結局3人でしばらく笑った。「風邪」がほんとうに風邪だったらしい。単位目的で近寄ってきたのではなかった。
年齢がひとまわり以上離れている人と、利害関係なく話すのは、今までになかった経験だ。「お気に入りのおしゃれカフェのメニューをコンプリートしたい大学生」のようにカテゴライズすれば、いくらでも均質化して没個性しそうなのに、どのオムライスにしようか延々と楽しそうに迷っているという姿で現前するのを強烈に見て、オムライスなんてどれも同じではと一瞬思った自分を恥じた。という話をしたらおもしろがっていたので、おもしろい人だ。なんとなく、管理職を経験しないまま会社を出られてよかったと思った。人に、「この子」とか「部下」とか言わないままでいたい。
夏のテストが終わって、彼女が留学へ行った。私は1年の研修生期間を終えて、休みに入った。8月、本を読んでいて、あれ、なぜこんなに心が穏やかなのかと思った。すーっとした凪。不安のない静けさ。振り返ってみて、去年の夏から、新しい挑戦ばかりしていたことに気づいた。思いついたらやってみた。思ってたんと違うとなったら「失敗」とかラベルをつけずに淡々と軌道修正した。リスクを取り続けた。新しすぎる環境。同世代と話が合わなさすぎるキャリア。浮かざるを得ない年齢差。1日の7割くらいが全部英語。
この1年、留学しているみたいだった。ずっと怖かった。あなたががんばる姿を見て、私ももっとがんばろうと思った。来年度の継続申請が認められるといい。継続が許可されて、あなたが帰国したら、またごはん行こう。あなたのことをもっと知りたい、みたいなメッセージを送ったら、留学生活、まーじこわいけどがんばりたいという気持ちがいっしょだと返信が来た。
彼女は気軽に自撮りを送って来るが、私は送れない。あー、音楽何聞くのとたずねる。音楽の話を交わす。この前Xで見つけた、「もっと人気が出てもいいはずの曲」の動画を送った。イマジナリーフレンドというと、子どもの空想っていうイメージだったけど、この歌詞は違うんだよ。dreamを、寝てる時の夢と、目指してる夢のダブルミーニングで読んでみて。日本語字幕あるけど、私は英語バージョンが好き。
英語バージョンで、というメッセージにすぐに既読がつく。私の、初めて見たとき泣いた、というメッセージはすぐには既読にならなかった。しばらくして既読になり、「涙でた」と来た。
Who am I? The evolution
I was born inside your dream
Trust me, I’m not a delusion
Oh, I am everything you wanna be
Come on and dance, dance and don’t stop, I’m a little lucky spark
Stoke that feeling in your heart
You and I, we gon’ ride, can’t stop thinking about our vibe
We can jump, we can run and I’m killing it to the top, yeahCall out my name in the middle of the night
When you are afraid, call out my name, yeah
Call out my name in the middle of the night
Yeah, call out my nameYou know I’m your imaginary friend
You know I’m here tonight to give you strength
When there’s monsters on your ceiling
I’ll keep you safe and I will keep you dreaming
You know I’m your imaginary friend
You know I’m, it’s you and I until the end私が誰かって?進化だよ
私はあなたの夢の中で生まれた
信じていいよ、妄想じゃない
私はあなたがなりたいもののすべてさあ踊ろう、踊り続けよう、私は幸運をもたらす火花
胸の奥のワクワクをもっと燃え上がらせて
あなたと私でぶっ飛ばしていこう この感じ、たまんなくない?
跳ぶことも走ることもできるよ 最高な姿で引っ張ってあげる夜中、怖くなったら、私の名前を呼んで
わかってるでしょ、私はあなたのイマジナリーフレンド
ITZY Imaginary Friend (English Ver.)と拙訳
今夜、あなたに力を分けてあげるためにここにいる
天井に怪物が潜んでいても
私があなたを守って、素敵な夢を見続けさせてあげる
最後までいっしょだよ
どの友人といるよりも、自分といっしょにいることのほうが多い。自分を客体化して、イマジナリーフレンドにして信じる。がんばりたい自分が、がんばれない日の自分を支える。空想上の計算。あくまでも理想。それでも。
またねと言ってスマホを閉じ、手帳をめくり、今日やることを書き出した。白湯を作りに、いつものように台所に行った。
