
日曜日、ベーグルがおいしかったから、パスワードをすべて変えることにした。なにもかもうまくいきそうな気持ち。ブラウザに記憶させる機能を使っていたぶん、それをひとつずつ消していけばいい。重くてだるい、めんどうなことを片づけよう。
100以上あるリストを眺める。まずは、ずっと使ってない、アカウントを消せそうなサイトから攻める。消したところで、「アカウントを消したアカウント」として記録が残るのはわかっている。そもそも、できるだけ登録しないほうがいいよねえと思いながら、サクサク行く。削除しました、これまでありがとうございました、というメッセージやメールが届くサービスばかりじゃない。だから、別れ方がうまいサービスは記憶に残る。
海外の店のいくつかで、「削除するには問い合わせフォームからコンタクトしなきゃいけない」ものがあった。ペースを落としたくなかったから、住所やクレカの情報を消し、パスワードを変えた。
ひとつずつ見ていくと、私はほぼ、大きな会社にしか自分の情報を預けてない。大きめの会社で、注文をまとめる。取り扱いがない場合、新しい店で新しいアカウントを作るよりは、街まで出てリアル店舗で買うほうが好き。買い物の範囲が狭いのも、都市部に住んでるのも、アカウントをたくさん持たなくてよいことにつながっているから、私ラッキーとか賢いとか言える問題ではないとは思いつつ。
よく使う厳選サービスが残った。パスワード作りに本腰を入れる。メモ帳アプリを開き、サービス名と、変更後のパスワードを記録していくことにする。もう、パスワードをブラウザに記憶させることはしない。
新しいパスワード。何にしようかしらん。覚えておく気がないので、複雑で長いものにしたい。プラトンは、文字よりも音声を重視していた。文字に記録し始めれば、人間の内的に記憶する力が衰えると言った。これはさすがに覚えられん、文字が必要やわ、と、プラトンに白旗を掲げさせたい。
「新しいパスワードを入力してください」というテキストを見て、Omoiukabanaiyonと思った。NaniniSurebaiiKanaと遊んでいたら、音に引っ張られて西野カナが頭の中に現れた。そこから時が遡り、ドコモのガラケーN504i、キッチュな待ち受け、大文字小文字数字記号を駆使したメアドの記憶に飛ぶ。
たとえばSentakuMonOHosanaKuCHAでもいい。倒置して、HosanaKuCHA!SentakuMonOにしてもよい。好きなものですらない、そのときに浮かんだもので歌う即興詩のよう。
無意味さの堅牢さに抗うように、私は遊んだ。入力欄では●で表示される、どうせ隠れてしまう文字に意味を求めた。推測できないもの、長いもの、複雑なものを、私はずっと書き続けられるような気がした。お気に入りは、LeMonJuICENoMit@ii4:)。超強いギャル。
最終的なパスワードはすべて、意味のない、でたらめな文字の組み合わせにした。ファイル名をつけて完成。プリントアウトしたものは、有意味のノスタルジー、無意味の詩集。
