花の寿命が来たときは、食卓の花瓶から台所のゴミ箱に向かうまでに、「ありがとう」と口に出して言うか、心の中で唱えるかする。命日が週末と重なったときは、夫も行動を共にする。私が「ありがとう」と言い、彼が「ぺこり」と言いながら頭を下げる。
ある晩、「歯磨き粉がそろそろなくなる」と言われた。「次のやつ、買ってあるよ」と返した。私が見たとき、彼は残った歯磨き粉を出すのにうにょーんと力を振り絞っていた。私の番になって、だめもとでチューブを押してみたら、ぽんっと1回分出てきた。もう1回分はある。たぶん彼は3回分のためにがんばったはずだ。夜遅く、私が新しいのを取り出したり開けたりしなくてもいいように。捨てるのは自分の番になるように。
ラーメンや冷やし中華など、スープがかかったメニューを食べたあと。私はお皿を持ってシンクに行き、スポンジに洗剤をつける。続くはずの夫が来ない。スポンジを置いて、シンクから死角になっている場所を見ると、彼がスープの残りをにまにましながら飲んでいる。「塩分過多です、だめです」と取り上げるけれど、実はあの「悪いことをしてる顔」は好きだ。
大きなエンディングを迎えるまでの、小さなエンディングたちの連なり。