春の日、第19章

スーパーに入るなり、いちごをカゴに入れた。300円の紅ほっぺ。旬だから軽率に買う。鮮魚売場であさりを見つける。ザルに載って塩水に浸かっている。「あさりを食べたい」よりも、「砂抜きしたい」が勝つ日がある。店員さんを呼んで、活きのいいやつをもらう。肉売場では、しゃぶしゃぶ肉が特売だ。薄いピンクの豚肉。ひらひら。明日、しょうが焼きにしよう。無脂肪のビヒタスヨーグルトも2つつかむ。

帰り道、平日の14時。晴れた日。人は歩いてない。車も通らない。風が吹いて、涙が出てきた。ダウンの袖からトレーナーの袖を出す。XSでも長くて折っているのを伸ばす。目頭を拭く。激しくなったので、道路の端に買いもの袋を置き、今度は両手で拭く。どうして泣くのか。早めに仕事が終わったからといって、こんな時間に買いものしているうしろめたさか。人と同じリズムで生きられないさみしさか。いちごを軽率に買った、あるいは本来の目的外であさりを買った罪悪感か。他の些細なあれこれの蓄積か。ただ単に少し疲れているのか。そのすべてか。花粉症のせいにしたいけど、花粉症じゃない。私には別のアレルギーがあって、通年で薬を飲んでいる。

向かいからパトカーがやって来るのが見えた。涙はそのままに、急いで買いもの袋をもち、角を曲がった。