体目的の極悪人

体調がものすごく悪くなったとき、体の細胞が飛散していくような、ふわっふわの浮遊感におそわれる。いつでも自分で出せる処方箋は寝ることだ。朝の11時だろうが、夕方の5時だろうが寝る。しばらく経つとましになる。

浮遊感が平日の夜、あるいは週末、つまり夫が在宅のときに起こった場合、私はすぐに彼の部屋に行き、強く抱きしめてもらう。そこにロマンティックな雰囲気はない。おたがい「はいはい、いつものやつです」という感じで、事務的に、がしっと抱きしめる/抱きしめられる。しばしそのままでいる。そうすると、飛散した細胞がもとに戻っていくようで不調が和らぐ。私は安堵し、「じゃ」と軽く礼を言って去る。

この場合の私を、彼は「体目的の極悪人」と呼ぶ。落ちつくためにぼくの体を利用しに来る、極めて体調の悪い人、の意味だ。私は確かに「便利な存在」として彼を利用している。結婚10年で磨いた冗談めいた薄情さも含まれている、ぴったりな表現だと思う。できるなら、真人間になりたい。シャバにいてまともな生活を送りたい。でもだめなんだ、できねえんだよ。俺は根っからの極悪人なんだ。俺が極悪人だから、お前の尊さが輝くってもんさ。これからも仲よくしような。