トマトとまな板と包丁

夫がフライパンで肉を焼いている。私は付け合わせの野菜を切り終えて、まな板と包丁を洗い、定位置に戻した。あ。トマトを切り忘れた。まな板と包丁をまた取り出し、冷蔵庫の野菜室をのぞく。トマトがない。そうだった。昨日食べたじゃん。野菜室を閉める。まな板と包丁の前で、うーんと思う。せっかく出したのに。食べたかったのに。彩りが綺麗になるはずだったのに。うー。

と5秒くらい停止していたら、夫が「トマトないの?せっかく(まな板と包丁)出したのに。愚か」と言った。私は何も言葉を発していなかったので驚いた。おうおうおう、どうしたと思った。私の行動の果ての沈黙に、たったの5秒で返してきたのがすごい。落ち込みは突然笑いになって、まあいっか、トマトなくても、となった。

何気ないことを見てくれていて、何気ないことを絶妙なタイミングで言ってくれる人がそばにいるということのよろこびを噛みしめた。