私たち夫婦と英語の関係

私たち夫婦は、わりと英語ができるほうだ。新卒で入った会社の関係で、TOEICをしばらく受け続けたことがある。付き合っていたので、同じ日、同じ試験会場に行く。帰り道で「ねえ、あの問題おもしろかったよね!」と盛り上がった。私たちにとって、大切なのは問題が解けた解けなかった云々ではないのである。「いやあ、あの会話のあの感じ、よかったよねえ」「うんうん、うまく作ってた」とか偉そうな視点で、あたかも映画を観たかのように、TOEICのリーディング問題の物語性について語っていた。昔のTOEICは読みものとしておもしろかった。問題の改訂があり、トピックも時代に合わせてチャットなどになったあたりから、別物になった気がする。必要なハイスコアは取れたので、「TOEICはつまらん」とフェードアウトして今に至る。

夫はソフトウェアエンジニアである。中学のころからコンピューターをたしなみ、英語の略語をひたすら覚えていたらしい。CPUをCPUではなくて、Central Processing Unitと覚える。「紺ちゃん、CMOSは何の略か知ってる?」と私に聞く。complementary metal-oxide semiconductor(相補型金属酸化膜半導体)。知るわけがなかろう。こういうのを、高校の退屈な授業のあいだにノートに書き出していたらしい。

私の高校は緊張感あふれる授業ばかりだったので、彼のような退屈さを感じる余裕がなかった。代わりに英語の時間、わからない単語を電子辞書で引いたあと、「お気に入り」のボタンを押して少しのあいだうっとりしていた。お気に入りの、比喩的なイディオムをたくさん登録してある。たとえばbuild a castle in the air、直訳は空中にお城を建てる、意味は空想にふける。いつかこういうおもしろさを共有できる相手と会えるといいなあと思っていた。

共有できる相手というのは、てっきり文系だと思っていたけれど、ばりばりの理系人だった。英単語の語源で盛り上がったり、意味の抽象的なイメージについて話し合ったり、おもしろいイディオムに喜んだりする。おじいちゃんおばあちゃんになっても、こういう知的好奇心でつながっていたい。