もんじゃ焼き幸福論

ホットプレートにもんじゃ焼きの具を広げて炒める。明太もちチーズ味。キャベツがやわらかくなったら、土手を建設する。出汁と小麦粉を溶いたものを流し入れ、土手を破壊し、平らにして整地する。

「きみは普段、何を考えているの?」と夫にたずねる。このところ、私は自分のアイデンティティのことを考えていた。「アイデンティティがどうちゃらとか考えなさそうだよね」と付け足す。

彼は「どうして電池が減るんだろうと思っている」と言った。スマホを取り出し、すばやく指を動かしてスクロールする。iOSと違って、Androidは自分であちこちプログラムできる。「ぼくが命令していないプログラムがどこかで動いているんだ。だからそのぶん電池が減るんだ」

「ほんとうにそればっかりで頭がいっぱいなの?」
「あ、それとアプリのアップデートのことを考えている」
顔を合わせてにこにこする。

今日のチーズはゴーダ入りで、黄色が濃い。いつものチーズはモッツァレラ入りでクリーム色、あっさりした味がする。

「変えてみたけどどうだろう、どっちがいいかな」「これはおいしい」「でもモッツァレラ入りはモッツァレラ入りでおいしかった」「わかる」「比べてみないと何とも言えない」「次は4分割にして比べよう」「賛成」「チーズなしエリア、ゴーダ入りエリア、モッツァレラ入りエリア」「ミックスエリア」「忘れないうちにまた作ろう」あっつ、はふはふ。「「おいしいね」」

青のりが飛ぶ。

もんじゃのことばかり考えていた。彼の頭のなかは1日じゅうこんな感じなんだろうか。目の前のこと。今のこと。空気を抜いたジップロックの袋のように、不安が入り込む余地のない密閉時間。