Writings

New Essays Every Monday

  • 7月3週目の日記

    7月10日(月)
    舞台「桜の園」のチケットを買った。平日の昼公演しかなく、「誰が行くねん」と思ったが、私たちである。夫は年休をとった。年初に観た「かもめ」といい、チェーホフの年だ。「桜の園」の読後は正直「ふーん」という感じだったけど、演出が新しそうなので楽しみ。他の短編も読み進めよう。

    7月11日(火)
    最近ずっと書いている文章に夫の意見を求める。彼は「ここはいらんね」とばっしばし切ってくる。それは往々にして、私が「これはなーいまいちかなーリズムがなー」と思っていた箇所。その一方で「ここは紺ちゃんの感情でしょ、大事にしよ」とか言う。この視点の一致やスピード、バランス感覚がたまらん。

    7月12日(水)
    今日も今日とて文章を書いた。9割完成してるように見える原稿をさらに磨いたり、数文字削ったり、思い切って壊して書き直したりするのは楽しい。この段階になると、音楽を流しながら作業する。書く前の構想用は比喩の多い曲を選ぶけど、推敲用はわかりやすい言葉の曲を選ぶ。TXTの「紫陽花のような恋」にした。いい曲。歌詞がシンプルで、繰り返し聞いていると頭のモードが切り替わり、文章を音楽的に修正するのに役立つ。音読でつっかえる場所、かたい表現、すぐに理解しにくい文章、漢字や同じ音が続く箇所を変えた。

    7月13日(木)
    noteにエッセイを投稿した。コンテストに応募するためのアカウント。準備から公開、告知ツイートまで、ずっと緊張していた。読んでくださった方からのハートやリプライがうれしい。

    7月14日(金)
    会社員の頃にお世話になった人たちや、学生時代の友人に連絡する。普段は自分から「読んでください」と言うタイプじゃないのだけど、殻を破ってみた。会社の人には連絡した勇気を褒められ、食事に誘われ、友人には「こういう作品書いたらまた見せて」と言われた。うれしくてにまにましたり泣いたりした。なんというか、オンラインのハートだけ見るとただの数字なんだけど、その中に確実に、リアルの知り合いやSNSのフォロワーさんがいることがすごい。

    7月15日(土)
    夫と、映画「ワン・デイ 23年のラブストーリー」を観た。23年分の7月15日に焦点を当てた作品。昔一緒に観たはずなのに彼が覚えてなくて、もう一度観ようと約束していた。本当は日中に観るつもりが、おたがい昼寝でいそがしくて夜になった。私たちの23年の定点観測、どんなだろうな。ハグか寝てるか食事してそう。

    7月16日(日)
    週末、夫とスーパーに行くのが好きだ。生活してるって感じがして、何年経っても飽きない。暑かったので、「暑い」と言うのを禁止した。ふたりで「寒い」とばかり言っていた。最近私の食欲がないから、値段が張ろうが何を買ってもよいことにする。いくらとハーゲンダッツ。お昼は海鮮丼、おやつに白玉クリームあんみつを作った。夜、急に体調が悪くなる。台所にぺたりと座っていたら、それもままならなくなって、倒れてしまった。声が出なくて、夫を呼べなくて、呼吸が上がってパニックになりそうだった。しばらくして、声が出るようになって呼んだら来てくれた。安心したら涙が出てきた。

  • 日曜日の発見

    外出から帰り着いて鍵を探しているとき、夫が「見て。あのうちの人たちは全員だめになってる」と言った。
    指は隣の家をさしている。
    ベランダに3つ、人間をだめにするタイプのクッションが干してあった。

    あのうちの人たちは全員だめになってる。

  • シャツの袖をまくりあげて

    roll up one’s shirt sleeves and get busy
    直訳:シャツの袖をまくりあげて忙しくする
    意味:気合いを入れてがんばる

    メンタルクリニックで薬が追加になり、採血した。
    私は幼いころから血管が細い。
    看護師さんには「血管が逃げる」と言われる。

    7才のとき、アレルギーの検査で大学病院に行った。
    真面目そうな研修医が、「あれ?おかしいな?」と言いながら私の腕に針を刺した。
    右手で30回試しても、左手で30回試してもだめだった。
    私が悪いような口ぶりだったので私が謝っていたが、合計60回もトライされるとさすがに「おかしい」と思い、気持ち悪くなる。
    研修医は、気絶した私を寝たと思って放置した。
    親は食堂に行っていて、そばにいなかった。
    しばらくして看護師が気づき、騒がしくなり、点滴をつけてくれた。
    カーテンを挟んだ横で、研修医が看護師に怒られていた。
    私の腕ばかり見て、顔を見ていなかったらしい。

    メンクリの先生はその話を知っている。
    手の甲の太い血管から採ることになった。
    フラッシュバックさせないようにという配慮にも見えるが、「あなたの血管ね~細いからね~嫌なんだよね~」と本音がだだ漏れである。
    「よーし」と気合いを入れて採ってくれた。
    「痛いです」とぶーぶー文句をたれていたら、先生は「痛くないように高い針使ったんだけど、資源の無駄だったね~」と言った。

    急な嵐で、外が真っ暗になった。
    雷、強風、激しい雨。
    先生が、血液の処理をしながら「雷に打たれると、頭がよくなるよ~」と笑った。
    横にいた受付の人が、「もー、先生ったら変なこと言う」とたしなめる。

    初めて行ったメンタルクリニックは、典型的な3分診療の病院。
    精神科はそのほうがもうかる。
    そこの先生は、いつもパソコンの方を向いていて、目を合わせない。
    読書や勉強や考えることを一切やめ、薬を飲んでいればいいという考え方だった。

    今通っているクリニックは、先生の趣味というか研究もかねていて、診察の枠が30分から1時間と長い。
    些細なことの相談や報告、冗談を交わす余裕がある。
    診察や、薬の処方のさじ加減が、たぶんかなりうまい。
    こちらを向いて、目を合わせて診てもらえることがうれしい。
    先生なりの気合いの入れ時や表現方法がある。