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20-30代男性におけるLINEスタンプ内面化の研究
彼はLINEのスタンプも食べた。もともとガラケー派だったけれど、スタンプコミュニケーションを気に入り、スマホ共々使うようになった。そしてLINE以外の場面で、スタンプみたいな言動をするようになった。たとえば、「じーっ」「えーん」「キリッ」「ぐっ!」「わくわく」「がるるー」「おおー」「イエーイ」「ぺこり」「ガーン」「えっ……」「えへん」と戯画的に言う。わざとうるうるの瞳で見つめてきたり、深刻な表情で落ちこんだり、ドアの隙間からひょっこり顔を出したり、ほっぺたをむうと膨らませてすねたりする。主に、無料でダウンロードできる楽天のパンダと、私が好んで使うねこぺんのトレースである。気の利いた返しや、スタンプの組み合わせ開発にも熱心。経験を積みすぎて、「今日、上司に『しょぼーん』って言いそうになった」と笑う日もあった。スタンプは、彼のユーモラスな性格の養分になった。
ふたりでごはんを https://konkawase.com/?p=179大学の言語学のゼミで同期だった友人が、東大の院に進み、博士号を取った。久しぶりに会ったとき、我が家の話をした。
私「夫がさ、LINEスタンプっぽい言動をするんだよ」
博士「どういうこと?」
私「新しいスタンプをダウンロードして使ってると、そのうちそのスタンプみたいな言葉を普段口にし始めたり、新しい動きをしたりするようになるんだよね」
博士「興味深いね(笑)」
私「でしょ。データ残してあるからさ、言語学の論文書けたりしないかな」
博士「書けるんじゃない?」
私「サンプル数1でも?」
博士「書き方によるかもよ」
私は文学に転向したので、もうこの論文を書くことはないけれど、言語学的フィールドワークは続けていく。この文章を書いているあいだにも、夫は楽天パンダを送ってきていた。今夜のメニューが和食と知って、親指を「ぐっ」と突きだしている。私はうさまるが手をばたつかせて「うりゃー」と言っているスタンプを返した。
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セルフレジ理論の適用
近所のスーパーのセルフレジが増えた。有人レジがひとつになった。お客さんは有人レジを好む人が多く、並ぶ。店への投書の掲示板にも、苦情ばかりが載っている。夫は有人派だ。今まで店員さんにお願いしていた労働が客に渡っただけである、コストカットの悪影響だとぷりぷりしていた。セルフレジの動線設計がかなり悪いこともあり、怒るのも無理はないと思う。私は空いてるほうを選ぶ派。
レディボーデンのアイスクリームがおいしい。チョコレートアイスにチョコチップが入ったミニカップ。私におみやげを買って来るならこれでお願いしますと、夫に伝えていた。
しばらくして彼は買ってきてくれて、私はおいしく食べた。彼は定期的な購入品についてはコストカットをもくろむ。ミニカップを数回買ったあと、大きいサイズ(パイント)を買ってきた。「これをこまめに食べるといいよ」
パイントにはチョコチップが入ってなくて、私は「む」と思った。でもまあ、チョコレートアイスは好きだし、いただきましょう。カップからワンスクープすくおうとする。硬くてうまくいかない。「うーーーにょーー」という変な声が出た。少し溶けたくらいでなんとかうまくいって、食べた。
別の日にまたワンスクープ食べようとしたら、この前よりもっと硬くなっていた。食べたいので懸命にすくおうとする。手が痛くなって休んでいるときに気づく。ミニカップだとこんな労力発生しないじゃん。「あっ、食べたい」と思って冷凍庫に行ったら、すぐに手に取れて、私はスカートの裾をふわっと揺らしながら優雅にエアコンの効いた部屋に戻れるじゃん。っていうか好きなのはチョコチップ入りだって。
また別の日にまた食べようとした。今度は夫が横にいた。私が硬いアイスと格闘しているのを見て、ひーっひっひっと悪い顔で爆笑している。「ねえ、これセルフレジと同じじゃん。きみのコストカットのしわ寄せが私に来ただけじゃん!」
これを読んでいる夫へ。私はミニカップが好きです。レディボーデンはチョコチップ、ハーゲンダッツはクッキーアンドクリームとストロベリーが好きです。よろしくお願いします。
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真摯なぎゅうを要求する
我が家は抱きしめ合うことを「ぎゅう」と呼ぶ。ハグなんて言わない。そんな洒落っ気のある夫婦ではない。
ぎゅうが発生するのは、立っているときと寝転んでいるときだ。立っているときはおたがいの体に手をまわし、ぎゅっとするのでわかりやすい。私は製造業の品質評価部さながら、直立時のぎゅうのあと、夫に「よしっ」と言う。よくできました、合格の品質です。今日もお仕事がんばりましょう or おつかれさまでした。解散。
寝転がっているときのぎゅうには2種類ある。真摯なぎゅうと怠惰なぎゅうだ。まず夫がベッドに大の字に寝転がる。私が腕に乗る。夫は私が乗っているほうの腕だけ動かして私を抱き寄せる。このぎゅうは怠惰なぎゅうだ。彼は3分もすれば腕の力を抜き、寝てしまうからだ。気持ちのよいベッド、エアコンの涼しい風、横にはかわいい人、ああしあわせ、すぴー。
私は真摯なぎゅうを要求する。真摯なぎゅうとは、背中が完全にベッドにくっついていた状態から体を起こし、体の側面だけベッドに接し、私に向き合って両腕をまわし、しっかりとぎゅうをすることだ。この姿勢は気を抜くと崩れるため、緊張感がある。つまり寝てしまいにくい。私に集中できる。
私は怠惰なぎゅうを正式なぎゅうと認定しない。私というすばらしい存在とぎゅうしようっていうのに、真摯じゃなくてどうする、いったいなんのつもりなのか。早くすぴーっと寝てしまいたい場合、怠惰なぎゅうでぐずぐずしているのは得策ではない。さっさと真摯なぎゅうをして、私がそろそろいいですと飽きるのを待ったほうが早い。
金曜日、私たちの結婚記念日だった。うなぎ屋さんでどんぶりを食べて、デパートで花束と仕出し弁当を買って帰ったあと、一緒に昼寝した。私は真摯なぎゅうを要求した。彼は真摯なぎゅうで応えた。しばらくしておたがい本格的に眠くなり、腕をとき、私は左手を、彼は右手をベッドに広げて寝た。くかーっ。
別にぎゅうの形によらず、彼がいつも真摯なのは知っている。