Writings

New Essays Every Monday

  • 私はイカロスでした

    文芸誌Paris Reviewのメールマガジンが、毎日詩を届けてくれる。過去に誌上に載った詩の中から、少しずつ。


    夏になると思い出す詩だ。

    I Was Icarus
    by Ulrich Berkes

    It must have been a hot summer back then, when I could fly.
    I was maybe seventeen.
    My room was on the ground floor, facing the back.
    Night after night I lay on the bed and imagined myself flying.
    That was a strain, I tell you.
    Usually I’d lie perfectly still for an hour before my body rose from the bed.
    Very slowly I rose, until I hovered a meter or so off the floor.
    Then with swimming strokes I propelled myself through the open window.
    Outside I flew higher and higher, over the garden fence, over the clothes-lines, over the roof tops and the apple-trees on the outskirts of town.
    The entire flight I felt the wind’s touch on my skin,
    and sometimes I heard voices, calling.

    —Translated by George Kane

    Paris Review, Issue no. 106 (Spring 1988)

    (もともとはおそらくドイツ語で、英訳をKane氏がおこなった)

    日本語訳 by 紺

    私が飛べたのは、きっと暑い夏だったのでしょう
    たぶん17歳でした
    私の部屋は1階で、家の裏側に面していました
    毎晩ベッドに横たわり、自分が飛んでいるのを想像しました
    それは本当に緊張することでした
    ベッドから体が起き上がるまで、1時間はじっと横になっていました
    ゆっくりと起き上がり、床から1メートルほど浮いた感じになりました
    それから泳ぐようにして、開いた窓から飛び出しました
    庭のフェンスを越え、物干しロープを越え、屋根の上を越え、町はずれのりんごの木を越え、どんどん高く飛んでいきました
    飛んでいるあいだずっと、風が肌に触れるのを感じ
    時々、呼ぶ声が聞こえました

  • ほたるいか

    ほたるいかミュージアムに行った
    ほたるいかの発光ライブショーを見た
    ほたるいかが光る仕組みを学んだ
    ほたるいか漁の網の形を知った
    ほたるいかの俳句を読んだ

    ほたるいか漁のビデオを観た
    ほたるいかの季節には
    ほたるいかミュージアムのスタッフさんが
    ほたるいかの発光ライブショーのために毎朝仕入れに行くらしい

    ほたるいかの刺身を食べた
    ほたるいかの天ぷらを食べた
    ほたるいかの酢味噌和えを食べた
    ほたるいかの沖漬けを食べた
    ほたるいかの素干しを試食して
    ほたるいかの素干し(15尾×2)を買った

    ほたるいかと夫のツーショットを撮った
    冷たい水の中で泳ぐほたるいかに触った

    ほたるいかの身投げの写真を見た

  • おうち企業制度と公式LINE

    夫婦間の頼み事や家事ごとに会社をつくり、LINEグループやメールを使って「会社ごっこ」。2024年5月現在、夫は3社、私は5社経営中。

    以前働いていたメーカーには、いわゆる本社機能の会社の他に、社内の清掃、出張・旅行のチケット手配、郵便、印刷、給食、保険、研修運営、翻訳、人材紹介などを担うグループ会社が数社あった。その仕組みにヒントを得てつくったのが家での企業制度。家で定期的に発生する仕事には会社をつくり、都度その会社にアウトソースするという形(設定)をとる。

    たとえば、夫の海外出張準備には「かわせトラベル」が活躍。忙しくて余裕のない夫の依頼を受けて私が外貨両替に行ったり、パッキングしたり。私が仕事で写真が必要なときは、だいたい夫の「エクセレントフォトサービス」に撮影を依頼。おたがい得意なことを照らし合わせてできることをやっている感じで、関係はフラット。

    この仕組みの好きな点は次のとおり:
    ■「ごっこ遊び」で楽しい。

    ■ 納品後、受領確認があってこそビジネス。「会社にアウトソースする」仕組みのおかげで、成果物の納品時には、都度必ず「ありがとう」が言語化される。

    ■「依頼する側」が、「いつもやってくれるから今回も何も言わなくてもやってくれるだろう」「これくらい当たり前にやってくれるだろう」といった安易な考えや雑な態度にならない。依頼と感謝を明言しないと、アウトソースの契約が成り立たない。

    ■「依頼を受ける側」が、「『いつもやってくれるから今回も何も言わなくてもやってくれるだろう』と思ってるだろうからやっとくけど、いつもそんなふうにやって当たり前の態度で、本当は不満を感じてるんだよ云々・・・」とか思わない。

    企業公式アカウントと称したLINEグループをつくったり、業務によってはメニュー表、作業報告書を書いたりも。業績によって倒産したり、マーケットのニーズを反映させて新しく立ち上げたりも。どうやったらこの仕事がおもしろくなるだろうとか、夫婦のいい関係に繋がるだろうとか、場が和むだろうかとよく考えている。

    我が家の会社一覧:

    株式会社OTTOホールディングス
    本社所在地:名古屋市川瀬家西区夫之間2-1 川瀬テクノロジーセンター
    設立年:2019年
    社風:堅実、柔軟、猫好き

    <傘下企業>
    エクセレントフォトサービス
    写真撮影・編集処理代行。色の専門家による高品質なサービス。カメラの使いかたレッスンもおこなう。こだわりたっぷり、確かな腕。

    システム班
    機材調達、メンテナンス、修理、サーバー設計・保守、システム設計。Linuxが専門、フルスタック。たまに設計思想や新技術に関するセミナーを開催(@夕食時。おもしろい)。家のサーバー管理や、パソコン・周辺器具の購入はすべて担当。嫁のデスクトップパソコンをBTO(受注生産で、いろいろカスタマイズできる)で買うことになったとき、1ヵ月、スペックをあれこれ考えていて楽しそうだった。USBケーブルなど、ちょっとしたパソコンアイテムはドラえもんのようにほいっと出してくる。

    おうち送風局
    エアコン温度の管理、扇風機・サーキュレーターの効果的な設置、お客様ニーズに配慮したピンポイント送風、洗濯物の室内乾燥、うちわで酢飯冷まし、送風機器の清掃マネジメント。

    エアコンの風が台所に届かないとき、扇風機の位置や角度を計算して風を送ってくれる。「ただいま涼しい風をお送りしております」というCMつき。仕様上、連続8時間でタイマーが作動し、自動OFFになってしまう扇風機に関しては、「労働基準法を遵守しております」とのコメント。学生時代から「パソコンの熱暴走」を抑えるために研究を重ねてきたということで、送風ファンへの思い入れは強く、満を持しての起業。会社として「仕事が夏に集中すること」を避けるため、アナログではあるが酢飯冷まし事業もおこなっている。

    株式会社YOMEホールディングス
    本社所在地:名古屋市川瀬家北区嫁之間1-3 川瀬ライブラリーセンター
    設立年:2019年
    社風:唐突、すばやい、本格志向

    <傘下企業>
    チケットぴゅあ

    チケット購入代行。夫の「クラシックコンサートに行きたいが、チケットぴあでしか買えないことが多い。ぴあの支払い手続きは仕組みが面倒くさくて、結局買わないまま終わる」というニーズから設立。ぴあ以外でも手配可。キーワードを登録しておくと、とても質の高いレコメンドが届く。

    かわせトラベル
    海外出張準備代行。十分な海外出張経験を活かし、ご指定の物品だけでなく、出張動線や体力、お疲れ予想などを総合的に考えてご提案。コロナ禍以降、出張が減ってしまって倒産の危機。

    ときめきスパークジョイ
    お掃除・動線改善・衣替え・アイロンがけ代行。通称ときスパ。

    深夜だいぶまえ食堂
    食事、お酒、おつまみ。ふたりとも深夜食堂のファンなので。「つくりたいものをつくる」「軽め」が営業方針。レモンサワーやブラックペッパーハイボールが売り。

    そなえる株式会社
    備蓄品の選定・購入・保管・定期点検・ローリングストックの実施、防災意識向上運動の推進、防災資料収集、被災時のリーダシップ発揮(備蓄品に限る)。消費期限、使い方、栄養、敏感肌適正、生活の仕方、好み、管理方法をよーく考えて、私たちにとって最適な備蓄ボックスを作っている。

    コロナ禍、夫の勤務する会社(←経営者じゃなくて従業員のほうの)でもリモートワークが始まった。開発環境が職場と異なるので、やっぱりストレスが溜まる様子。場所や通勤時間のような「気持ちを区切るきっかけ」もなく、大変そう。そこで、普段のお弁当の代わりに「今日は12時に喫茶店で待ち合わせね」と「デート」の約束をしておいて、お昼にリビングでナポリタンを出したり、終業時間手前に「深夜だいぶまえ食堂」からLINEを送り、キッチンカウンターにハイチェアを置いてバーカウンターにし、私が夕食を作っている間に対面でおつまみとドリンクを楽しんでもらったりしていた。

    リモートになっても、「いってらっしゃい」「いってきます」「おかえり」「ただいま」のやりとりはあえて継続。「ファン」の設定でドアから一定距離を置いて「出待ち」し、姿を現したタイミングで「きゃーっ!」と拍手、夫は芸能人のように笑顔で手を振る、みたいなバリエーションも。

    要は、夫の頭が「仕事モード」のときに私が「ごっこ遊び」の即興芝居を始めてしまうようなものだけど、彼は一瞬ハッとした顔をしたあとニコニコ乗っかってくるので、切り替えの一助にはなっていた(私が落ち込んで気持ちを切り替えられないとき、夫が「ごっこ遊び」の即興芝居開始でユーモラスに気づかせてくれることもよくある。いずれにせよ唐突に始まり、相手は信じて乗っかる)。

    ちょっと体調不良が続くと、ついネガティブなものを過剰に膨らませることにエネルギーを費やしてしまいがち。そっちに流れてしまうことに意識的でいるよう注意して、おもしろい暮らしをつくるために言葉や態度を選び、積み重ねていくほうにエネルギーをつかいたい。