New Essays Every Monday
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春の日、第19章
スーパーに入るなり、いちごをカゴに入れた。300円の紅ほっぺ。旬だから軽率に買う。鮮魚売場であさりを見つける。ザルに載って塩水に浸かっている。「あさりを食べたい」よりも、「砂抜きしたい」が勝つ日がある。店員さんを呼んで、活きのいいやつをもらう。肉売場では、しゃぶしゃぶ肉が特売だ。薄いピンクの豚肉。ひらひら。明日、しょうが焼きにしよう。無脂肪のビヒタスヨーグルトも2つつかむ。
帰り道、平日の14時。晴れた日。人は歩いてない。車も通らない。風が吹いて、涙が出てきた。ダウンの袖からトレーナーの袖を出す。XSでも長くて折っているのを伸ばす。目頭を拭く。激しくなったので、道路の端に買いもの袋を置き、今度は両手で拭く。どうして泣くのか。早めに仕事が終わったからといって、こんな時間に買いものしているうしろめたさか。人と同じリズムで生きられないさみしさか。いちごを軽率に買った、あるいは本来の目的外であさりを買った罪悪感か。他の些細なあれこれの蓄積か。ただ単に少し疲れているのか。そのすべてか。花粉症のせいにしたいけど、花粉症じゃない。私には別のアレルギーがあって、通年で薬を飲んでいる。
向かいからパトカーがやって来るのが見えた。涙はそのままに、急いで買いもの袋をもち、角を曲がった。
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春の日、第62章
歩きながら左右の目を交互に閉じていた。「やっぱり右の度数が合ってないな。いつコンタクト屋に行くかな」と考えていたら、目が合った交通整理のおじいさんにウインクされた。距離のあるウインクではなく、すれ違いざまの、顔を少しこちらに傾けたうえでのウインク。にんまり笑っていて、私も笑った。あれはウインクし慣れている。危ない危ないと思いながら、ときめきを抑えた。
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春の日、第124章
月曜日。エッセイを3本書き終えた。うち2本のタイトルが決まらない。たくさんある断片の連なりに乗って春を進んでいくように表現したい。
私はLINEを開いて夫に連絡する。「2桁の数字ふたつちょうだい」
夫、しばらくして返信する。「62 19」
私は「おっけー」と打ち、うさまるの「ありがとう!!!」スタンプを加える。2本のタイトルを作り、保存する。
夫、LINEで追記。「電池残量と、PCのL1とL2キャッシュの容量の後ろと前より」
私は「よくわからんけどありがとう笑」と返す。本当によくわからん。でもなんかおもしろいので、1本追加で残しておこう。ちなみにこのエッセイのタイトルは12時49分から。日常の中、やろうと思えば無数にできる意味づけ。