Writings

New Essays Every Monday

  • 花束みたいな恋をしていない

    人と「好きなものが同じ」ということで仲よくなった経験がほぼない。私と親しくしてくれる人たちは、私と趣味が違う人たちばかりだ。具体的なレベルでは接点がないけれども、抽象的なレベルでは「自分で考えられる」「倫理観が似ている」「何かを作るのが好き」「国内外問わず情報を取りにいける」などの共通点がある。

    「花束みたいな恋をした」という映画がある。趣味が合うふたりのラブストーリー。私と夫は花束みたいな恋をしていない。ことごとく好きなものが異なり、ゆえに互いが新鮮で、質問して教えてもらい、思想をシェアしたり議論してきた関係である。

    Xにいると、「好きなものが同じ」人たちがつながりやすいんだなあと思う。私は社会人で、資格試験の勉強をしていないので、大学生や資格試験で勉強している勉強アカウントの人たちと少し色が違う。読書アカウントでは日本の本が人気に見える。私は海外の本が好きで、半分くらいは英語で読んでいるので、読書アカウントの主流に乗ってはいないと思う。料理も、わりと朝食と昼食はどうでもよく(名前のつかない料理を雑に作って食べる)、夫と一緒に食べられる夕食をたまにがんばるくらい。料理アカウントを名乗るには忍耐と持続性が足りない。

    というわけで、私のアカウントはカテゴライズしにくいものだ。それは自然とそうなったというよりは、初期から、各界隈のカテゴリーからずれてしまうことを把握し、仕方なく運用してきた結果だ。それなのに関わってくださる方がいて、定期的に新鮮な気持ちで驚く。

    昔は花束みたいな恋に憧れていたし、ツイートもただ好きなものでつながれるものだと思っていた。でも私はそうじゃなかった。そこに満足を覚える人間じゃなかった。わかりづらさを抱えたままで人と接するのは、いつでもどこかで健やかに怯えているのは、これはこれでいいものなのかもしれない。

  • コナンの映画

    2023年、いちばんおもしろかった映画体験はコナンである。

    私が唐突に夫に「観に行こう」と言ったのは、ちょうど公開初日だった。別に初日に行きたかったわけではない。たまたまだった。平日、休みをとってホカンス(ホテルでバカンス)して帰る日、そのまま帰るのがもったいなくて、何か映画を観たかった。

    チケットは取れた。名駅のミッドランドスクエアシネマは人でぎゅうぎゅうだった。たくさんの人がコナンを楽しみにしていた。あまりマス向けの映画を観ないし、初日を狙いもしない夫婦なので、あの混雑は新鮮だった。私たちがよく観るような映画は、1日に2回上映されたらいいくらいのものが多い。コナンは混雑する駅の電車のダイヤ並みにスケジュールが詰め込まれていた。ミッドランドスクエアシネマの1と2で建物が離れていて、上映時間によって違う。1だと思ってたら2だった、あるいはその逆の人たちが、よく走っているのを見た。

    上映前、お手洗いに行った。すでに観終わった女性がふたり、手を洗いながら豪快にネタバレをしていた。過密なスケジュールだとこんなこともあるのかと思った。

    上映中、いなくなろうとする哀ちゃんにうるっとした。エンディングでスピッツが「美しい鰭(ひれ)」と歌っていた。事前に「どうして美しい鮨(すし)なんてタイトルにするんだろう」と首をかしげていたので恥ずかしかった。

    上映後、主に子どもと若い人が中心の観客が続々と出口に向かっていく。私たちもタイミングを見計らって出ようとした。ふとうしろの席に目をやると、老夫婦が座っていた。両隣が空いていたので、孫のお供ではなさそうだ。混雑ぐあいから、しばらく座っていそう。老夫婦。コナン。初日。なぜ。夫が「あのふたりが最大の謎だ」と言った。

    名鉄百貨店で夕食を買って帰った。鮨にした。

  • 混乱のクリスマスプレゼント

    アメリカの本屋パウエルズで、ハードカバーを2冊買った。スティーブン・ミルハウザーの新作。タイトルはDisruptions(破裂、崩壊、混乱、妨害)。注文して3週間くらいで届いた。

    私はものが無事に届くかとても心配する性格だ。荷物の追跡番号で状況を数日おきに確認し、「よし、倉庫出発!」「出国まで時間がかかるなあ」「出国ー!」「あとは税関のみっ……」と一喜一憂していた。

    そうして届いたものがこちら。

    私が買ったのは2冊だけ。残りはホリデーシーズンだからとつけてくれたグッズである。ホリデー専用に制作されたものではなく、通年で売られているもの。3500円ぶんはあり、実は買おうか迷っていたものもあったので嬉しかった。

    待ちに待った本が、素敵なギフトと共に届いた。よかった。よろこびが膨らみ、緊張と不安が消えかけたところで本の横を見たらこうだった。

    私のぶんも、家庭教師の先生に送るぶんも、ひどい製本だった。ページの端がそろっていない。激しくギザギザしている。角が破れているページもある。私はぬああああああと絶望した。めっちゃ読みにくいやん。高価で、届くまで3週間待った、1年くらい使う予定の本。綺麗なものが来てほしかった。運が悪い。

    先生に郵送するとき、ピンクの付箋にメッセージを書いて表紙に貼った。

    Thank you always.  I was confused by the rough binding.  Exactly disruptive.  Sorry.
    いつもありがとうございます。ひどい製本に困惑しています。タイトルどおり、まさに混乱を伴います。すみません。

    授業の日、先生が「届いたよ!ありがとう」と言いながら本を見せてくれた。表紙に付箋が貼られたままだった。

    「届いて付箋を読んで、中身を読んで、もう一度付箋を読んだら爆笑したよ。確かにひどい製本なんだけど、これはきっと意図的なデザインだよ。なのに紺が謝ってるのがおもしろくて、2分くらい笑いが止まらなかった」

    きちんとしたものを好む私のことも知ったうえだと、余計におもしろかったらしい。先生は付箋をはがし、裏表紙を開いたところに貼りなおした。「元気のない日はここを開くね。素敵なクリスマスプレゼントをありがとう」

    読む前から、まんまと混乱した。作品を読むとなったら、もっと混乱するのだろうか。混乱したときは、先生の高笑いを思い出して抜け出せたらいい。