New Essays Every Monday
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旅のスナップショット
出発前、リビングで夫と写真を撮る。旅の記録の始まり。自分の顔が小さくなるように、私の顔が相対的に大きく写るように、彼は後ろに退く。ぽかぽか殴って撮りなおし。彼はでれでれした表情だ。
途中の駅。電車から駆け下りた女子高生がポカリスエットのCMみたいだった。青い空の下、ミニ扇風機をマイク代わりに歌っているよう。同級生が彼女を追いかける。
横に座っている彼の肩をたたく。慣れているのでこっちを向かない。ちっ。ほっぺを刺す。
混雑したホームでいろはすを買って薬を飲む。350mlの小さなボトルを手のひらに載せ、彼の注意を引く。新幹線到着の風と音楽に合わせて、「いろはす、おみず、おいしい!」と笑顔で言ってみる。「落とすぞ」と言われる。私にポカリスエットのCMの話は来ない。
目的地に着く。「忘れものするなよ」と言われたので、「私を忘れるなよ」と返した。
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一旦のカウントダウンスタート
平日、休みをとって夫と大阪に行った。ミュージカルRENTの観劇。日米合作の、全編英語公演。
時を同じくして、志望校の今年度1回目の入試が終わった。私は来年受験予定。次の秋、どう過ごしているかなあと思う。
Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes
Five hundred twenty-five thousand moments so dear
Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes
How do you measure, measure a year?In daylights
In sunsets
In midnights
In cups of coffee
In inches
In miles
In laughter
In strife
In five hundred twenty-five thousand six hundred minutes
How do you measure a year in the life?How about love?
Measure in love
Seasons of love1年、525600分
大切な時をどうやって測る?
夜明けの数、夕焼けの数、過ごした真夜中の数、コーヒーカップの数、インチ、マイル、笑った回数、争いの数
人生の1年をどうやって測る?
愛はどうだろう?
愛で測ってみよう
愛という季節で私のこの先の1年は、読んだ本の数、出会った作家の数、覚えた単語の数、書いた文字の数、使ったフレーズの数、興奮しながら夫にシェアした話の数が大きな意味をもつ。1年のすみずみを、人や言葉や文学への愛で満たしていきたい。
家に帰る前、大学のウェブサイトで合格発表を見た。何事もイメトレ。来年、私の受験番号がありますように。
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海の沈黙・星への歩み
著者:ヴェルコール
訳者:河野與一、加藤周一
出版社:岩波書店
発行日:1973年2月
形態:文庫渡辺一夫の『曲説フランス文学』で、1章分を割いて紹介されている本。フランスがドイツに占領された頃の、「抵抗文学(レジスタンス文学)」の代表作として知られる。当時の出版は非合法、地下活動的なのもの。「ヴェルコール」は本名ではない。
『海の沈黙』は、フランスを敬愛しながらもドイツ軍としてフランスにやってきた将校と、部屋を提供する家主の女性、その姪の話。場の登場人物としては、彼女たちはほとんどしゃべらない。夜、将校はしばし居間に立ち寄って自分の昔話、好きな物語、理想の話をしていくが、彼女たちは感情を表に出さないし、動かず、沈黙したままでいる。将校が休暇でパリを訪れたところで、沈黙が変質し、クライマックスへ向かう。
沈黙がもう一度襲って来た。もう一度、しかし今度は遙かに得体のしれない張り切った沈黙。そうだ、かつての沈黙の下には、――丁度、水の静かな表面の下に海の動物の乱闘があるように、――隠された様々の心持、互いに相手を否定して戦う様々の欲求や思想の海底生活が蠢くのをはっきりと感じた。けれどもこの時の沈黙の下には、いや、ただむごたらしい抑圧だけ・・・・・・ (p. 57)
この将校のような「犠牲者」、理想を信じたからこそ少しずつ引き裂かれながら死んでいった人はどれくらいいるんだろう。
『星への歩み』は、チェコスロバキアの家から抜け出して、憧れのフランスへ渡るトーマの話。星の意味がわかったときに、心が最も動く。
読めてよかった。私は登場人物が少ない、派手な出来事が起きない、簡潔な文体、短い話がほんとうに好きなんだなと再確認した。他の作品も読んでみたいが、日本語では手に入りにくいのが残念。