Writings

New Essays Every Monday

  • 「よ!」
    「よう!」
    よしみ
    容貌魁偉

    「ようこそ」
    寄席
    予鈴
    寄り合い
    様子者
    詠む
    よよむ

    養老
    よりすぐり
    よろこばし
    予想外
    余韻

    陽光
    横切り
    よりどりみどり
    拗長音

    「ようよう」
    よくぞ
    ようやく

    夜遊び
    洋酒
    酔い心地

    夜雨
    酔どれ
    よたよた
    よろけ

    夜風吹きゆく宵月夜

  • しあわせのおかわりをお願いします、おおもりで

    年が明けた瞬間、いよいよ受験生だと思うと急に怖くなった。社会人入試だから、正直いつ受けてもよく、それはつまり落ちたって健康な限り何度もチャンスはあるということなのだけど、一旦来年度の受験を決めているので、わかりやすいカウントダウンが始まると焦る。大学院に受かったとして、その先もメンタルの管理は必要。だから今から準備しておくとよいと思った。

    Amazonで本を探した。勉強の不安に関する本は意外と見つからなかった。仕事や人間関係、気にしすぎな性格向けのものが多かった。

    これではない、これでもない、というのを繰り返していると、なんとなく、こういう感じのこと、がぼんやり浮かび上がってくる。よく考えてみると、別に新年になって急に生まれた問題ではなく、昔にもあった、既視感のあるものだった。ということは、家に本があるはずだ。何かをつかもうと格闘した自分の残像が本棚に眠っているはず。

    今、この瞬間に集中せよ。未来や過去に目を向けると不安になる。目標をもち、計画を立て、日々従っていたら辿り着ける。読書や学習などの精神的活動に没頭できる人はしあわせである。

    気づかせてくれたのはショーペンハウアーとリラックマ。特に、私はかねてからリラックマを尊敬していて、本は全て持っている。今になって彼の言葉の数々が腹落ちした。夫の部屋にあった、夫のリラックマのぬいぐるみを奪い、私の部屋に置くことにした。勉強の合間の休憩に抱きしめる。ふわふわのお腹や耳をなでる。今、ここ、を思い出すリマインダー。

    勉強に夢中になれるのはしあわせだ。少し休んで、またしあわせのおかわりをする。

  • Time Walk

    私と夫は実家に帰省しない。年末年始は掃除を少しして、かずのことカニとお雑煮を食べるだけ。近所のスーパーが休むから、そのぶん買い込んで、冷蔵庫と冷凍庫がぱんぱんになる時期。ひととおり食べ終えたら1月4日。

    いつもどおり散歩に行こうとしたら、彼がついてくると言った。じゃあ、あのショッピングモールに行ってみるかね。そうしよう。車の行き来は多いけど、歩道には人がいない。プレイヤーの音量を上げ、音楽をかけて口ずさむ。Boni Pueriという、チェコの少年合唱団の曲。キーが高い。ずっとまえ、私が歌えるようになるまで延々と聞かされていた彼は、「あ、ラーメン食べたいって言ってる歌だね」と茶化す。違うってば。

    Morning breeze blowing my hair into single piece
    Take me away
    Thousand days flying by my side
    All for us
    朝のそよ風が私の髪をひとつにまとめる
    連れ去ってほしい
    千の日が私のそばを飛んでいく
    すべては私たちのために

    Boni Pueri, Time Walk

    土手で、母親と幼い姉妹が凧を上げていた。お姉ちゃんが凧の本体をもつ。妹ちゃんが紐を枯れ草に絡ませて遊ぶ。母親が叱る。健脚の老夫婦に追い越される。

    穏やかな光を浴びて、ゆっくり歩いた。彼は4つ年上で、私より先を生きていたのに、今はいっしょにいる。カメラを取り出して私の写真を撮ろうとしたので、四方にすばやく動いて邪魔してやる。

    If I ever walk in time
    We will together as one
    もし私が時間の中を自由に歩くなら
    私たちはひとつになれるね

    ショッピングモールには人がたくさんいた。初めての場所だったから、慣れた動きの人たちに翻弄される。フードコートで何か食べたいものを探して、なくて、食品売り場で何か買おうとして、停滞している空気に気持ちが悪くなってやめた。

    行きとは別の道を歩いて、別のスーパーに行く。鍋の材料を買った。歩きすぎたぶん、夕食は簡単なものがいい。

    駅のホームに乗りたい電車が到着する。特急電車の通過待ちをする。いちごポッキーを食べる。特急が到着したら、私たちが乗っていた電車の人たちが一斉に立ち上がってそっちに移動した。太陽が沈んでいく。腕を広げてお風呂に浸かっているみたいな空が広がって、私もお風呂に入りたくなる。もうすぐヤマトが来る時間だ。

    If sunset was beautiful enough
    To share with you for all day
    Oh moonlight light up the night enough I can not see for all day
    夕焼けがじゅうぶんに美しかったら、一日中あなたと分かち合える
    月明かりが夜をたっぷり照らしてくれたら、何も見えないくらい

    彼が「今日は紺ちゃんとびっくりドンキーを見た」と言った。そうだ、私たちはびっくりドンキーの店を見た。私は初めて見た。「次は入ってみよう」と言われて、「うん、次は入ってみよう」と言った。私たちはびっくりドンキーでごはんを食べていないのに、店がそこにあることをいっしょに確認しただけなのに、ふたりともなぜか得意げで、満たされていた。

    All the happy times of ours
    Shine the light through gloomy night
    すべての幸せな時間が
    暗い夜を照らす

    いっしょにいるのがうまくなった。洒落た言葉や物や店がなくても、私たちは私たちでいられる。

    Time has gone I see you
    Looking back to the good times
    See you again flying tonight
    Until the time none we can do
    時は過ぎ去り、私はあなたを見る
    楽しかった日々を振り返る
    今夜また時間の中を飛んで会いましょう
    私たちが何もできなくなるその時まで