Writings

New Essays Every Monday

  • 夫はスタートレックのファンだ。
    とりわけ「新スタートレック」シリーズ(通称TNG)のピカード艦長が好きだ。
    ピカード艦長が船の中で、ホットアールグレイティーを飲むので、夫も毎日飲んでいる。
    私はもともと「SFって難しそう・・・・・・」というイメージでいたけれど、夫があまりにもスタートレックを愛しているため、好きな人の好きなものを知ってみようと観た。
    以来私もすっかりファンである。
    (私は「ディスカバリー」シリーズが好き。次点にTNG)

    TNGの中に、こんな言葉がある。

    Space: the final frontier. These are the voyages of the starship Enterprise. Its continuing mission: to explore strange new worlds, to seek out new life and new civilizations, to boldly go where no one has gone before.
    宇宙、そこは最後のフロンティア。これはUSSエンタープライズが、任務を続行して、新世界を探索し、新しい生命と文明を求めて、人類未踏の地に航海した物語である。

    この”boldly go where no one has gone before”「誰も行ったことのない場所へ大胆に向かおう」は、うちの暗黙の家訓である。
    根っからのインドアなので、好奇心強く新しい場所に行くことはないけれど、夫婦のやりとりはユーモラスで、即興芝居的で、挑発的で、常に新しいものを求めている。

    水曜日、外出したついでにプレゼントを買った。
    夫は飲み会で帰りが遅くなる。
    私は自室でビールを飲みながら、「このまま渡してはいけない」と思った。
    家の中に隠して、クイズを解くと次のクイズの場所が書いてあり、最終的にお宝が見つかるようなゲームは既に昔やってしまった。
    同じことはできない。
    ピカード艦長を敬愛するエンジニアの妻として、夫が「そうきたか」と感心するようなことを発明せねばならない。

    というわけで、スタートレックの言葉を使ったクロスワードパズルを作った。
    言葉とヒントの文章を入力すれば、自動的にパズルを生成してくれるサイトを使った。
    できたものがこちら:


    3 アンドロイドのデータ少佐を作った博士
    6 宇宙艦隊の候補生を訓練する施設
    7 ホログラムを使ったデバイス
    8 ピカード艦長役、パトリック・スチュアートの自伝のタイトル


    1 あなたの妻が習得を試みた言語
    2 スタートレックの脚本家、プロデューサー、創案者
    4 TNGのシーズン6、第15話のタイトル
    5 ピカード艦長がレプリケイターにいつもオーダーする飲みもの

    帰宅は11時頃だった。
    眠いかなーと心配していたけど杞憂だった。
    「またやっちまったんだな」と言いたげな、キラキラした目で机につき、文字を書き込んでいった。
    私はこういう時の夫を見ているのがとても好き。
    最近仕事が大変そう。
    家ではちょっとでも、素でゆるまってほしい。

    ピンクの蛍光ペンで印をつけてある文字を組み合わせて出てきた場所に向かった。
    お宝とご対面の瞬間、私は後ろで拍手していた。
    任務完了!

    次はどんなことをしようかな。

    サムネイルのフォント作成:
    スタートレックフォント

    クロスワードパズルメーカー:
    Crossword Puzzle Maker | World Famous from The Teacher’s Corner

  • 6月5日(月)
    弱っていると文章が書けないもんだなあと思う。閉じてるというか、スイッチが入らない。ぼけーっとしていると連想や記憶がつながって何かしら出てくるものだけど、調子が悪いとWi-Fiの接続が悪いみたいにつながらない。

    6月6日(火)
    月曜日の夜に長いミーティングが入るようになった夫。週明けから疲れている。夕食のスンドゥブチゲを用意している間に、肉屋で買ったささみチーズカツを出す。「え、食べてもいいの!?」と言う。いつもは夕食前にこんなの出さないので、わかりやすく興奮していた。私もひとかじりする。たぶん、彼はひとりで食べるより分けるほうが好きな人。

    6月7日(水)
    友人の誕生日。デカルネロカステのカステラが今日届くように手配しておいた。ちゃんと輸送されてるかしらんと追跡情報を確認したら、彼女のほうで時間指定がされていた。品物の記載欄で中身がバレていませんようにと願う。夕方、ジムに行く代わりに遠めのショッピングモールへ歩いた。魚、日本酒、花を買う。地元の生産者の名前付きのバラが、2本で360円。名駅や栄で買うと1本500円くらいしそうなやつ。たまに行こう。

    6月8日(木)
    カポーティの短編集を読む。あまり好きじゃなくて、読後に視界が鈍くなった。併読しているミルハウザーがはずれないことに慣れすぎていた。以前なら「よさがわからない自分がだめ」と責めていたけれど、家庭教師の先生のおかげで、好きじゃないと思う自分を認められるようになった。こういう本はツイートしないでおく。もう1冊読んでみよう。

    6月9日(金)
    小松菜とツナを炒めたものをお弁当に入れた。帰ってきた夫が「こまつなつな」と命名していた。命名は「リピートしてほしい」の意味。簡単に作れるところはいいものの、ツナは値上げが激しいんだよなあ・・・・・・。久しぶりに選書の仕事をした。渡すまえに、ざっと読み直し。動画や映画を含めてご提案。

    6月10日(土)
    朝から夫が元気。中国製のスマホのOSを入れ替えて、デフォルトの変なアプリを消して、極力省エネにして、いろいろ設定をいじって・・・・・・というのがとても楽しいらしい。私は技術的な話に興味がないけれど、彼がはしゃいでるのを見るのは好き。夕方、美容室の帰りにえび天を買ってきてくれた。言ってなかったけど、実はえびが食べたい気分だった。すばらしい洞察。

    6月11日(日)
    アイロンで親指を火傷してしまった。アイロンの先の形に赤くなっている。ヒリヒリ。水ぶくれになりそう。手足の傷は、どんなに小さくても生活がしにくくなる。洗顔、料理、食事、洗濯、入浴、運動が全部おっくうだ。せっかく、昨日から丁寧なスキンケアを心がけるようになったのに、24時間も経たないうちにやる気が失せた。しばらく廃人かもしれない。

  • enough to make a cat speak
    直訳:猫をしゃべらせるのに十分な
    意味:(主にお酒が)すばらしい

    今まででいちばんおいしかったお酒は、うちゅうブルーイングのINFINITY。
    人気だし、1年に1回販売されるかどうかくらいみたいなので、2年前以来買えてない。
    おいしさも大事だけど、入手しやすさも重視しなければ。
    そうして始めたクラフトビール巡りは、私の住む名古屋から始まって、結局名古屋に落ち着いた。
    おいしさと入手しやすさを合わせて考えると、今いちばん好きなビールはワイマーケットブルーイングのルプリンネクターだ。

    ワイマーケットの醸造所は、名駅の柳橋市場にある。
    2階の店で、作りたてのビールを飲める。
    名駅に出かけたとき、たまに寄る。
    ここで飲むルプリンがいちばんおいしい。
    ひとりでも楽しいし、人と過ごすのもいい。

    平日の開店時間は15時。
    そんな時間でも結構にぎわうから、名古屋も大人も不思議だ。
    柳橋市場に住む猫はしゃべれるかもしれない。

  • 平日、日中はたいてい黙っている。
    体裁を繕う言葉、嘘、機嫌をとるための言葉を使わなくていい。
    消化されやすいように噛み砕いた言葉を、よどみなく話さなくていい。
    評価されるように話す戦いに加わらなくていい。
    黙っていることを叱られないし、許可を受けなくてもいい。

    平日、日中はたいてい静かだ。
    理不尽な言葉、偉い人たちの言葉、評価が耳に入ってこない。
    おしゃれな空気を作るためだけのBGMも聞かなくていい。
    電話もかかってこないから、ずっと耳栓をつけていられる。

    夫を見送って出迎えるまでのあいだ、耳栓をしたまま、誰とも話さない日がある。
    読書と思案と設計が主な私の仕事は、それでも成り立つ。
    仕事仲間とのやりとりはテキストメイン。
    月に数回の会議ではみんなでたくさん話すけれど、祭みたいな楽しい特別感があって、日常じゃない。

    先週から、幽霊になってしまった人の物語を読んでいる。
    幽霊になった自分のことを、なんとも言えない存在だと話す。
    なんとも言えない形の仕事をしている私は、彼に自分を重ねた。
    人に自分を説明するために仕事をしているわけじゃないし、周りの人たちは十分に理解してくれているから、わざわざ外向けのラベルをこしらえなくてもいいんだけど、自分の説明しにくさを煩わしく感じることがある。
    説明したくないけど、できたらいいのにと思うことがある。
    わかりやすい外向けのラベルを持っていた会社員の頃の願い、「こうなりたい」というのは叶っているので、どういう状況にいても満たされなさは残るんだろう。

    今日は雨で、近所の家の工事が休みだ。
    耳栓をしていても聞こえる音が、今日は聞こえない。
    積ん読はたくさん。仕事もたくさん。
    今週も静かにがんばろう。

  • 5月29日(月)
    折りたたみ傘を持ってジムへ。持ち手の樹脂がべとべとして困る。ただでさえ、雨で気持ちがどんよりしているのに。ミナペルホネンとSENZがコラボした、強風でも折れない傘。強風で出歩くことはないから、買い換えよう。かさばってもいい、持ち手は曲がっているやつがいい。

    5月30日(火)
    どうも調子が悪い気がしてぼけっと様子をみていたら、やっぱり調子が悪かった。鼻風邪だ。頭痛もある。葛根湯とビタミンCを飲む。ジムに毎日行くつもりが、早くも断念。冷凍のちゃんぽんにシーフードミックスを追加して夕食に。にんじんは全部夫にあげた。寒くないのに鼻水が止まらない。

    5月31日(水)
    体調が悪い人のことを、うちでは「悪人」と呼ぶ。体調が極めて悪い場合には「極悪人」になる。悪人になったときは叱られるし、風邪をうつすなと煙たがられるけど、更生への道は明るい。安静にしているだけで「えらい」と褒められる。

    6月1日(木)
    ジムへ。男子中学生3人がうしろからやってきた。全員、自転車を引いたまま、おしゃべりに夢中。端の人が私の腕にがりーっと自転車を当てた。そのまま、道いっぱいに広がっていくので、「危ないです」と声をかけた。「あ」と言われた。もう少し歩いた先に、女子中学生がいた。リュックのせいでスカートが上がっていた。横断歩道のタイミングで伝えたら、「ありがとうございます!」と言われた。差。

    6月2日(金)
    雨がすごくて、窓の外が真っ白。風も強い。朝いつも通りに出勤した夫が、昼過ぎに帰ってきた。帰宅命令が出たらしい。仮眠明けに横にいたので夢かと思った。小躍り。電車が動いているうちに戻ってきてくれてよかった。川沿いに住む友人を心配しながら寝落ち。

    6月3日(土)
    昨日の会議は初めての形だったから、前日は眠れなかったし、当日も長く緊張したままだった。おかげで今日はくたくたに煮た白菜みたいな体をしていた。オーダーしていた指輪の引き取りで栄の三越へ。石なしの、夫とまったく同じデザインの結婚指輪に変えた。今までのものはダイヤの隙間に汚れがつくのを恐れて、外していることのほうが多かったけれど、これで四六時中つけていられる。なだ万のお弁当をテイクアウト。ぜいたく。

    6月4日(日)
    ストウブの鍋いっぱいに肉じゃがを作った。しばらくのお弁当の具材。夕食にも出したら、夫が目をキラキラさせて食べていた。保存容器に詰めているとき、「大丈夫?入る?閉まる?手伝おうか?」と言ってくる。手伝うというのはつまり、追加で食べますという意味だ。「明日のほうが味がしみておいしいですよ」と返した。

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