New Essays Every Monday
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ほたるいか
ほたるいかミュージアムに行った
ほたるいかの発光ライブショーを見た
ほたるいかが光る仕組みを学んだ
ほたるいか漁の網の形を知った
ほたるいかの俳句を読んだほたるいか漁のビデオを観た
ほたるいかの季節には
ほたるいかミュージアムのスタッフさんが
ほたるいかの発光ライブショーのために毎朝仕入れに行くらしいほたるいかの刺身を食べた
ほたるいかの天ぷらを食べた
ほたるいかの酢味噌和えを食べた
ほたるいかの沖漬けを食べた
ほたるいかの素干しを試食して
ほたるいかの素干し(15尾×2)を買ったほたるいかと夫のツーショットを撮った
冷たい水の中で泳ぐほたるいかに触ったほたるいかの身投げの写真を見た
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おうち企業制度と公式LINE
夫婦間の頼み事や家事ごとに会社をつくり、LINEグループやメールを使って「会社ごっこ」。2024年5月現在、夫は3社、私は5社経営中。
以前働いていたメーカーには、いわゆる本社機能の会社の他に、社内の清掃、出張・旅行のチケット手配、郵便、印刷、給食、保険、研修運営、翻訳、人材紹介などを担うグループ会社が数社あった。その仕組みにヒントを得てつくったのが家での企業制度。家で定期的に発生する仕事には会社をつくり、都度その会社にアウトソースするという形(設定)をとる。
たとえば、夫の海外出張準備には「かわせトラベル」が活躍。忙しくて余裕のない夫の依頼を受けて私が外貨両替に行ったり、パッキングしたり。私が仕事で写真が必要なときは、だいたい夫の「エクセレントフォトサービス」に撮影を依頼。おたがい得意なことを照らし合わせてできることをやっている感じで、関係はフラット。
この仕組みの好きな点は次のとおり:
■「ごっこ遊び」で楽しい。■ 納品後、受領確認があってこそビジネス。「会社にアウトソースする」仕組みのおかげで、成果物の納品時には、都度必ず「ありがとう」が言語化される。
■「依頼する側」が、「いつもやってくれるから今回も何も言わなくてもやってくれるだろう」「これくらい当たり前にやってくれるだろう」といった安易な考えや雑な態度にならない。依頼と感謝を明言しないと、アウトソースの契約が成り立たない。
■「依頼を受ける側」が、「『いつもやってくれるから今回も何も言わなくてもやってくれるだろう』と思ってるだろうからやっとくけど、いつもそんなふうにやって当たり前の態度で、本当は不満を感じてるんだよ云々・・・」とか思わない。
企業公式アカウントと称したLINEグループをつくったり、業務によってはメニュー表、作業報告書を書いたりも。業績によって倒産したり、マーケットのニーズを反映させて新しく立ち上げたりも。どうやったらこの仕事がおもしろくなるだろうとか、夫婦のいい関係に繋がるだろうとか、場が和むだろうかとよく考えている。
我が家の会社一覧:
株式会社OTTOホールディングス
本社所在地:名古屋市川瀬家西区夫之間2-1 川瀬テクノロジーセンター
設立年:2019年
社風:堅実、柔軟、猫好き<傘下企業>
エクセレントフォトサービス
写真撮影・編集処理代行。色の専門家による高品質なサービス。カメラの使いかたレッスンもおこなう。こだわりたっぷり、確かな腕。システム班
機材調達、メンテナンス、修理、サーバー設計・保守、システム設計。Linuxが専門、フルスタック。たまに設計思想や新技術に関するセミナーを開催(@夕食時。おもしろい)。家のサーバー管理や、パソコン・周辺器具の購入はすべて担当。嫁のデスクトップパソコンをBTO(受注生産で、いろいろカスタマイズできる)で買うことになったとき、1ヵ月、スペックをあれこれ考えていて楽しそうだった。USBケーブルなど、ちょっとしたパソコンアイテムはドラえもんのようにほいっと出してくる。おうち送風局
エアコン温度の管理、扇風機・サーキュレーターの効果的な設置、お客様ニーズに配慮したピンポイント送風、洗濯物の室内乾燥、うちわで酢飯冷まし、送風機器の清掃マネジメント。エアコンの風が台所に届かないとき、扇風機の位置や角度を計算して風を送ってくれる。「ただいま涼しい風をお送りしております」というCMつき。仕様上、連続8時間でタイマーが作動し、自動OFFになってしまう扇風機に関しては、「労働基準法を遵守しております」とのコメント。学生時代から「パソコンの熱暴走」を抑えるために研究を重ねてきたということで、送風ファンへの思い入れは強く、満を持しての起業。会社として「仕事が夏に集中すること」を避けるため、アナログではあるが酢飯冷まし事業もおこなっている。
株式会社YOMEホールディングス
本社所在地:名古屋市川瀬家北区嫁之間1-3 川瀬ライブラリーセンター
設立年:2019年
社風:唐突、すばやい、本格志向<傘下企業>
チケットぴゅあ
チケット購入代行。夫の「クラシックコンサートに行きたいが、チケットぴあでしか買えないことが多い。ぴあの支払い手続きは仕組みが面倒くさくて、結局買わないまま終わる」というニーズから設立。ぴあ以外でも手配可。キーワードを登録しておくと、とても質の高いレコメンドが届く。かわせトラベル
海外出張準備代行。十分な海外出張経験を活かし、ご指定の物品だけでなく、出張動線や体力、お疲れ予想などを総合的に考えてご提案。コロナ禍以降、出張が減ってしまって倒産の危機。ときめきスパークジョイ
お掃除・動線改善・衣替え・アイロンがけ代行。通称ときスパ。深夜だいぶまえ食堂
食事、お酒、おつまみ。ふたりとも深夜食堂のファンなので。「つくりたいものをつくる」「軽め」が営業方針。レモンサワーやブラックペッパーハイボールが売り。そなえる株式会社
備蓄品の選定・購入・保管・定期点検・ローリングストックの実施、防災意識向上運動の推進、防災資料収集、被災時のリーダシップ発揮(備蓄品に限る)。消費期限、使い方、栄養、敏感肌適正、生活の仕方、好み、管理方法をよーく考えて、私たちにとって最適な備蓄ボックスを作っている。コロナ禍、夫の勤務する会社(←経営者じゃなくて従業員のほうの)でもリモートワークが始まった。開発環境が職場と異なるので、やっぱりストレスが溜まる様子。場所や通勤時間のような「気持ちを区切るきっかけ」もなく、大変そう。そこで、普段のお弁当の代わりに「今日は12時に喫茶店で待ち合わせね」と「デート」の約束をしておいて、お昼にリビングでナポリタンを出したり、終業時間手前に「深夜だいぶまえ食堂」からLINEを送り、キッチンカウンターにハイチェアを置いてバーカウンターにし、私が夕食を作っている間に対面でおつまみとドリンクを楽しんでもらったりしていた。
リモートになっても、「いってらっしゃい」「いってきます」「おかえり」「ただいま」のやりとりはあえて継続。「ファン」の設定でドアから一定距離を置いて「出待ち」し、姿を現したタイミングで「きゃーっ!」と拍手、夫は芸能人のように笑顔で手を振る、みたいなバリエーションも。
要は、夫の頭が「仕事モード」のときに私が「ごっこ遊び」の即興芝居を始めてしまうようなものだけど、彼は一瞬ハッとした顔をしたあとニコニコ乗っかってくるので、切り替えの一助にはなっていた(私が落ち込んで気持ちを切り替えられないとき、夫が「ごっこ遊び」の即興芝居開始でユーモラスに気づかせてくれることもよくある。いずれにせよ唐突に始まり、相手は信じて乗っかる)。
ちょっと体調不良が続くと、ついネガティブなものを過剰に膨らませることにエネルギーを費やしてしまいがち。そっちに流れてしまうことに意識的でいるよう注意して、おもしろい暮らしをつくるために言葉や態度を選び、積み重ねていくほうにエネルギーをつかいたい。
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夜は短し歩けよ小娘
初めての万年筆は、プレゼントでもらったパイロットのソネットだ。大学に入って、シェイクスピアのソネットを読み始めたころ。インクはブルーブラックのカートリッジ。スクリュー式ではない、ただカチッとはめるタイプのキャップは、機動性に優れる。万年筆を使ったことがない贈り主と、使ったことがない私と、万年筆を、デパートの店員さんがちょうどいい具合に結びつけてくれた。もしあの時のインクがブラックだったら綺麗と思わなかったし、中が吸引式だったら、キャップがスクリュー式だったら、面倒に感じて使い続けなかった。
3年が経ち、東京を出るころ、他の万年筆も使ってみたくなった。他の色のインクにも興味があるし、吸引式も試してみたい。ということで、大井町のフルハルターに行った(2018年2月、我孫子にご移転)。
フルハルターは、長年モンブラン社で働いていたペン先調整の職人、森山さんのお店。お客さんの書く角度に合わせて研いだペン先の万年筆を販売している。万年筆好きなら一度は名前を聞いたことがある、とも言われるくらい、有名なところだ。
出入りしていた学会で知り合った文房具好きの人が、「フルハルター、 『えむせん』がいいよ」と言っていた。住所が私の家の近く。「ほ!ちょうどいい!えむせん!」、ひょいと予約して出かけた。
今思えば、「えむせん」が何なのか調べておくべきだったし、フルハルターへ行く前に丸善や伊東屋へ行っておくべきだったと思う。自分で万年筆を買ったことのない小娘が最初に行くには、ステップを飛ばしすぎていた。マサラタウンを出たサトシが、レベル15くらいのゼニガメと、森でつかまえたピカチュウとコクーンを連れて、ジムマスター、いや四天王に、「ちわーっす、よろしくおねがいしまーっす☆」と戦いを挑みに行くようなものである。ちょろっと歩いてきた経験と、ものおじのなさ、元気しかない。
ビルの1階の狭いスペースに、机と椅子があった。森山さんが、品物を受け取りにきたお客さんと歓談していた。入れないので外で待つ。予想に反し、文房具屋さんのような佇まいではなく、冷や汗が出始める。漏れ聞こえる「この前の〇〇は~~で」とか「++のインクと&&の組み合わせが粋で」などの万年筆談義、意味がわからない。
順番が来て、どんなものをと聞かれて、「えむせんを…」と答えるときには元気がなくなりかけていた。出てきた「えむせん」、ペリカン社スーベレーンのM1000。長さ約18cm、重さ約35g。小3で成長が止まった私の小さな手には習字の筆のようにバカでかく、もうほんとにお前何しにきたという気持ちでいっぱいだった。
気を取り直して選ぶ。フルハルターで主に取り扱われているスーベレーンには、サイズが300、400、600、800、1000とあり、数字が大きくなるのに合わせて万年筆の大きさも上がる。1000は大きくてだめ、300は日常使いには小さすぎる。400、600、800、どれにしよう。
「えむせん」を出してきたところからずっと、森山さんには見つめられ続けている。待たれている空気に耐えられなくなって、「えっと、これ、ですかね?」と聞いた。鋭い表情を変えないまま、すぐに「ご自分で選んでください」と返された。
えらいところに来てしまったと反省しながら、時間をかけて400を選んだ。ポケモンの「きみにきめた!」のようなまっすぐさはなく、これよりはこっち、こっちよりはあっち、の消去法の結果に過ぎない。すると森山さんが口角を上げて、「ええ、私もそれがいちばん合っていると思います」とおっしゃった。
次は、ペン先を太いBから細いEFに研ぎ出してもらうための、筆記角度の確認(一般的なお店では、この研ぎ出しをやっていない。BならB、EFならEFのペン先を買う)。私は万年筆を鉛筆のように持つのが好きだし(寝かせて持つのが好きじゃない)、鉛筆の持ち方も正しくない。正しい持ち方の話をされるものだと思っていたけど違った。「あなたは立ててお書きになるから、それに合わせます」とだけ。残りの時間、次のお客さんが来るまで、万年筆のお話をうかがった。
数週間経ち、小包で届いた。自ら調合したというグリーンのインクで書かれたメッセージカードが入っていた。インクを吸引させて使ってみたら、ソネットとの違いに驚く。するする書ける! ソネットは3年経っても書き味がカリカリなままなのに。楽しい!
厳しく突き放したり、手に合わせて研いでくれたり、深み・おもしろみを教えてくれたりと、とことんやさしいお店、人だと思った。
フルハルターに行かなかったら、ソネットのカリカリが当たり前だと思っていたし、服のような「自分に合う合わない」が万年筆にあると知らずにいたし、自分のくせをくせのまま肯定することもなかった。手にとるたびに、なめらかな書き味によろこびながら、濃密な体験を思い出して自問する。
自分で決めているか?
自分を肯定しているか?
楽しんでいるか?