Writings

New Essays Every Monday

  • あまちゃん 

    詩の気分。無限ループ。

    ———

    存在に潜って言葉を探すとき
    涙 鼻水 冷や汗 胃酸が
    体じゅうを
    満たしていきます

    ほんとうに泣いているひとは
    鼻水が出るのよと
    ドラマを見ながら言ってた母さん
    たしかに鼻水は出ますが

    いちばん伝えたいひとに
    いつも何も伝えられない
    手汲みの意味を呼び水に
    湿る手のひらを見せあうことなんて

    飲みこむ唾で巡るのは
    青い期待諦め畏敬絶望戦き確信ありがたみ
    っていうかそもそもこんなでごめんなさい
    ああ そこだけ殺ぎ取っていかないで

    陽を浴びて
    白湯を飲んだら
    よくなります
    さて

  • 特別な青信号をきみに

    「とうさん、まだ わたれないよ。」
    「よし、よし。」
    とうさんが いいました。
    「いま、青にしてあげるから、まっていなさい。」
    それから、ころあいを みはからって
    「えいっ。」
    といいました。

    しんごうは、青になりました。
    (ふうん。うちのとうさん、すごいんだ。)
    くまの子は、かんしんしました。
    (「えいっ。」っていえば、しんごう、かわっちゃうんだものな。)

    三木卓「えいっ」

    日曜日、夫とふたりでほっともっとに出かけた。私は最近疲れやすく、大きな音を聞きたくなかったので、遠回りして静かな道を選んだ。夫は私より背が高くて歩幅が広い。歩くのが速い。私は「ゆっくり歩いて」と頼む。

    あと少しでほっともっとに着くあたりの交差点。横断歩道。信号が変わるのを待つ、つもりでいたら、すぐに青信号になった。私は「ちょうどいいね」とよろこんだ。彼は「紺ちゃんのために特別に用意した」と言った。ふうん、うちのおっと、すごいんだ。あらかじめよういできちゃうんだもんな。おやくしょのひとと、なかよしなのかな。

    私は海鮮天丼とジュースを、夫はBIGのり弁当とチキンバスケットを買った。月曜日、私がお弁当を作らなくてすむようにするための、多めの唐揚げ。

  • 眠りの金継ぎ

    うまく眠ることができない。ふたつめの会社を辞めたあとしばらくして、「会社員」というラベルを失った自分に耐えられなくなったあたりで、眠れなくなった。なかなか寝つけない「入眠困難」、途中で起きてしまう「中途覚醒」、眠りが浅い「熟睡困難」、希望する時間より早く起きてしまう「早期覚醒」、すべてが当てはまる。薬は飲む。飲むが、必要な睡眠時間に対して、早めに起きてしまう。他の薬はもう全部試した。

    23時ごろに部屋の明かりを消して、ベッドに座り、足にブランケットをかけ、丸めた掛布団と壁にもたれるのが好きだ。30分はぼうっと窓を見ている。このあいだに夫は別の部屋で寝入っている。静かで暗い部屋は落ち着く。たまに、そのあととろとろと眠りの世界に行けることがある。体勢も崩れてきていて、掛布団が枕のような感じ。ああいうふうに眠れるのは、本当に幸せなことだ。私は3時間くらいで目を覚ます。夢の国もおしまい。台所に行って、薬を飲み、ベッドに正しく横になる。朝、夫を見送ったり、自分の仕事と勉強をしたりして、きりがついたら昼寝する。20分の日もあるし、2時間の日もある。ぼんやりタイムなしに薬を飲んで眠っても昼寝が必要だ。

    睡眠時間がひとかたまりだったころを思い出せない。今の私の眠りは2、3のかけらに散らばる。まあまあ合う薬があるだけまだましなのだけど、割れてしまった眠りをうまく金継ぎできたらいいのになと思う。