New Essays Every Monday
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OMG
ずっと心のよりどころにしていた本がある。大学生のときに読んだ、英語学者の本。「高校を出てすぐ英文科に入ったところで、シェリーの詩がわかるわけがない。ぼくはわかったふりをせず、ほんとうにわかるまで英語力を磨いた」という主旨の本。ぞくぞくしなければ、わかったとは言えない、と強調する。
TOEICは、言語学の教科書を1冊読み切るたびにぽんっと上がった。点数が上がっても、英語で書かれた文学を読み、心底おもしろいと思えたことはなかった。すらすら読みたい。細かなニュアンスを含めて理解し、感情を動かされたい。大学時代も、卒業してからも、この先生を目標のひとりにして勉強してきた。
久しぶりに読んだら、印象が変わっていた。私の英語力が格段に伸びたことと、仕事で様々な人に会ったことが大きな理由だと思う。英語の話は今も響いたけれど、他はまったくだった。こんな物言いの先生だったっけ。あれ、ここは、ここも、ここも、全然響かない。インターネットで調べたら、お亡くなりになっていた。私が支持しない発言の記録がぽろぽろと出てきた。人は見せたい部分を選べるし、年を経て変わる。師を見つけるのは、見極めるのは難しいことだ。
家庭教師の先生と英語でやりとりしていて、おおこれはまさにオーマイゴッド、という文脈があった。でもそう言わなかった。代わりに「ここでOMGという言葉をつかいたいのですが、なんの神も信じていないのでためらいます」という感じのことを言った。先生は「ただ自分を信じたらいいよ」と笑っていた。
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大学院への進学
大学院に進学することにした。入学試験を受けると決めただけで受かってないし、受けるとしても今年度ではないし、入学もしていないのだけど、大きな決断なので書いておく。
専攻はアメリカ文学の予定。学部時代は英米文学専攻で、イギリス文学、アメリカ文学、言語学を必修で学んだ。ゼミこそ言語学にしたけれど、文学も好きだった。その心残りがゆえに、卒業後も勉強は続けた。家庭教師の先生のおかげで、文学の英語も読めるようになった。
学位を得てどうこうしたいとか、仕事に活かしたいとかはない。今の私は、とりあえずの肩書きはあるもののいろいろなことができ、いい意味で何者でもない。自分の中にグラデーションや移ろい、不明瞭さ、不安定さ、先の見えなさがありながらも、焦りや浮遊感なく立てている。純粋に学問を志すタイミングが来たと思った。いや、今までも志してきたんだけど、新しい場所にも行ってみたい気持ちが強くなった。
最近は情報収集したり、参考書を買ったり、院試の勉強を始めたりしている。いくつか目標ができ、生活に張り合いがある。
20代のころ、金銭面で院進を諦めたとき、あるいは仕事が忙しくて本が読めず、出張中のベトナムで泣いたとき、私はこんな未来の自分を想像していただろうか。底抜けに明るく楽観的なわけでもない、かといってただただ暗く厭世的でもない。いいぐあいのチューニング。試験に落ちたらまた受ければいいし、ゆっくり自分のペースで進めばいい。どこにいても、いくつになっても、私は結局同じものを愛しているんだから。
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ちょろい女
well(1) 副詞 よく、満足に、申し分なく、うまく
well(2) 名詞 井戸a cry or scream of laughter – laughter that continued to well up in her
Steven Millhauser, Dangerous Laughter, p.82簡単そうな単語に悩んだぶん、わかったときの喜びが大きい場合がある。wellはまず副詞で習った。I know well. いつだったか、高校の単語帳で井戸が出てきた。2つの語源は違うので、1つの単語の2種類の意味ではなく、独立した別々の単語として扱われる。そして先週現れたwell。構造的には動詞だが、私の知っているwellは副詞と名詞だけだ。続くup inって何。あれでしょ、また簡単な単語と組み合わさって思いもよらない意味になるやつでしょ。私そういうの本当に苦手。辞書をだいぶ駆使しても出てこないことあるもん。今回は辞書で調べずに諦めた。
家庭教師の先生に聞いたら、「わきあがる感じよ」と言われた。へえ。wellで?わきあがる?なんで?……って、あーーーーーーーーー!もしかして井戸に動詞があるのか!?
調べたらあった。辞書にしっかり載っていた。わきでる、あふれる、こみあげる。なので、上の引用文は「彼女にこみあげ続けた笑い」みたいな訳になる。
私はちょろい女だ。こんな出会い方をしただけで、すっかり覚えてしまうし、1週間くらいはご機嫌である。