Writings

New Essays Every Monday

  • 軽率に切る

    連続勉強記録が嫌いだ。勉強系のアプリに入っているのが、いらない。そんなことをやってくれなくても私は続けられる。存在していいから、せめて非表示を選ばせてほしい。限られたスペースの一部が、連続記録に充てられているのがいやだ。非表示にできないアプリを使うときは、思い立ったとき、たとえば17日連続記録ができあがっているときに記録を切る。次の日に起動させない。連続記録が達成要件に入っているようなバッジはもらえない。いらないから問題ない。

    ブログは毎週月曜日の更新にしているけれど、無理しない。体調不良は仕方ない。どんなにリズムよく毎週続いていても記録を切る。

    ポッドキャストの更新について、相方のひなさんと今日話しあった。事情があり、もしかすると今後、収録できずに止めてしまうことがあるかもとのことだった。止めればいいじゃんと思った。それで誰かに怒られるわけではない。大丈夫になったら再開すればいいだけの話。

    続けることで得られる満足感や自信、切迫感、自動操縦感が欲しくない。人からモチベーションを上げてもらいたくない。私は自分で選んで今日何かを行い、何かをやらないことを決めた。それだけでいい。

  • ぼくらの仕事の仕方

    私(デザイナー)の仕事の仕方:
    先方「1ヶ月でお願いします」
    私「わかりました」
    1週間で7割を作る
    2週間で細部を詰める
    残りの1週間で見なおし、納期少し前~締め切り通りに提出する。

    夫(ソフトウェアエンジニア)の仕事の仕方:
    半年くらい先を予期して、必要そうなものを作っておく
    ~~~時間の経過~~~
    上司など「○○を作ってほしいんだけど」
    夫「わかりました」
     (もう作ってあるとは言わずに)「納期はどれくらいですか」
    上司など「1週間くらいかな」
    夫「わかりました」
    とはいえもう作ってある。微調整などはする。
    その間に予期できる別のものに着手する。
    納期前倒し、例えば5日で提出する。
    夫(あたかも直近で苦労して作ったかのように)「できました」
    上司など「速いね、ありがとう!」→評価が上がる。

    夫のやり方を初めて聞いたとき、「はああああああああああ?!」と声が出た。予期して作っておくって何だ。

  • 新しい言葉をつくっちゃえ

    正しい言葉遣いも大切だけど、言葉を新しくつくったり遊んだりするのも楽しい。フィールドワークで抽出された我が家の用語集と、浮かび上がった詩。

    Family lexicon is:
    – a bundle of old love letters
    – important energy
    – regular exercise
    – playing in a particular style
    – to relax completely and enjoy
    – to understand or respect other people’s ideas and behaviour
    – supporting changes in some systems that give people more freedom

    ファミリーレキシコンは
    何度も読み返したラブレターの束
    大切なエネルギー
    いつもやってるエクササイズ
    こだわりの遊び
    うんとくつろいで楽しむこと
    相手の考えや行動を理解すること、敬うこと
    もっと自由なシステムに変えていくこと

    by 紺(Longman Active Study Dictionary 5th edition、 “lexicon”掲載ページ、見開きで見つけた単語から作成(写真の蛍光ペン部分))

    オースティン・クレオンさんちのオーウェンくん(2019年時点で6歳)は、お父さんの影響で、自分で絵を描いたり、音楽やzineをつくったりしている。かわいいので、私も新作を楽しみにしている。このツイートにも「いいね」した。

    訳すなら、「 “Loveheart”は今や我が家の定番の言葉です」。 “lexicon”は、「ある特定の個人・領域などにおける用語集」のこと。本屋で買える「正式な辞書」には載っていないけど、オーウェンくんが母の日やバレンタインで使うので「オースティン家の辞書」には載っている言葉だという意味。

    「ファミリーレキシコン」、我が家(2人暮らし)ではどうだろうとフィールドワークを始めた。普段通りの生活の中に観察者の自分を置き、会話の分析と記録を続けた。

    あまり意識していなかったが、我が家は言葉の積極的な開発と便乗が推奨される環境である。新しい単語や意味が意図的に、事故的に、偶然にひょいひょい生まれ、流行り、廃れていく。音や意味の変化を経て定着に至ったものもある。書き言葉よりも話し言葉のほうが発達している。

    うちのファミリーレキシコン
    (各項目の最後は例文)

    こてね
    仕事がうまくいった、楽しいことがあったなどで精神的に満たされている、ほどよい身体的疲労がある、おいしいごはんを食べる、酒を一定量以上飲む、という条件がそろった上で、風呂に入る前にこてんと寝てしまうこと。ぎりぎりまで「お風呂には入るよ」「横になってるだけで眠ってない」とつぶやき続け、最終的には相手に嘘をつく。幸せそうな顔に免じて、ごくたまにであれば許される行為。「こてんね」からの音変化。

    「昨日はこてねしてごめん。ほんとうに反省してる」

    ぽてね
    夫が、山盛りのポテトサラダを食べたあと、こてねに至ること。ポテトサラダはカロリーが高いため、こてねしないことを条件に提供されることが多く、こてねと違って重罪である。

    「ぽてねするって、人としてどうなの?」

    解体/解除
    妻が洗ってカゴに積んだ食器を、夫が元の場所に戻すこと。心ここにあらずで気が急いている場合、いつもの場所とは違う場所に積まれた皿で、ピサの斜塔が建つ。2種類あるのは、初回の聞き間違いによる。どちらも譲らずどちらも定着。

    「これつくってる間に、解体しといてくれないかな」
    「わかった、解除する!」

    接触不良
    道具、とりわけ台所用品が妻の手のサイズや目的、作業動線に合わないこと。

    「卵焼き器、接触不良だったんだけど、小さいものに変えたらめっちゃ使いやすくて楽しくなったーーー!!」

    人気者
    風邪っぴき、病人。ウイルスからモテモテの状態。

    「だから言ったじゃん、寒い格好しちゃだめだって」
    「ほら、ぼく人気者だから仕方ないよ」

    自由研究
    きらめくアイデアに心を踊らせ、夜や週末などのあるひとかたまりの時間、自室にこもって実験やものづくりにいそしむこと。夫のは今仕事で必要なことの数歩先のこと。あるいは関係があるかはわからないが、すごい発明に思えるもの。妻のは書きもの調べもの。専門を別にしながらも、発生したエネルギーには敬意を払いたいので、研究終了後の会話には「おうむ返し」のルールを採用している。

    「今日はサーバの自由研究をしたんだ!(中略)すごいでしょ!」
    「サーバの自由研究をしたんだね!それはすごいね!」
    「そう思うよねー!うんうん」
    (ここまでセット)

    刺す
    夫が、自分のヒゲが伸びているのをわかっていて、顔を妻に近づけようとすること。脅し文句だが、対する返答も脅し文句になることが多い。

    「いっしょに行ってくれなきゃ刺すよ」
    「夕飯出さないよ」

    業務委託
    相手の得意なことを任せること。キッチンとネットワークは年間包括契約、それ以外は個別契約。

    「これ、業務委託したいんだけど」

    パスタマイスター
    夫の肩書きのひとつ。役職が人を育てる。お湯を沸かし、塩と麺を計量し、鍋に入れ、タイマーをセットし、茹で、ざるにあげる一連の流れを担当する高度技術専門職。ソースやサラダは専門外のため、任務終了後はカトラリー設置部門へ異動。

    「パスタマイスター、そろそろ出勤のお時間です」

    同期
    街の屋外ディスプレイでスーモの広告が流れ始めた瞬間に、妻がMacBookに繋がれたiPhoneのように、スーモの歌を口ずさみ始めること。

    「スモスモスモスモスモスモスーモ♪」
    「同期したね」

    キーステーション
    旅行先で起点にする駅。近くに宿泊することが多い。

    「今回の旅は広島駅をキーステーションにお送りしましょう」

    クスリをやる
    妻が自分の処方薬を無印良品のピルケース(6日分)に分けること。

    「お皿洗ってくれる?私クスリやるから」
    「おっけー」

    クスリを盛る
    妻が夫にサプリメントを渡すこと。夫は疲れがひどいときだけ飲むので、妻が用法用量を守って渡す。

    「昨日待ってたのに。クスリ盛ってくれるの」
    「ごめん、忘れてた」

    沈む
    お風呂の湯船に浸かるという意味。妻の言い間違いから。

    「今日お風呂に沈んだの?」
    「うん、少し」
    「しっかり沈んでね」

    潜入
    地下も含めて何階もあるような大きな建物に2人で入る場合に、夫が使う。悪いことをしていないのに悪いことをしている気持ちになる。

    「さあ着いた。潜入するよ」

    調査
    店で品物を見てまわること。「潜入」と合わせ、スパイ色が強くなる理由は不明。

    「今日はあのパン屋を調査しなきゃ」

    毎日言葉遊びをしているような、即興芝居をけしかけているような、機転を試しあっているような感じだな。負けないぞ。