Writings

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  • 2枚のワンピース

    12月にメルカリで譲ってもらったワンピースの、より新品に近いものをもう1着買った。

    1枚目は、出品者いわく、あまり使っていない、傷もない、ただ部分的に壊れたので補修している、とのことだった。かなり安かったのと、出回らない柄だったのとで即決した。届いたワンピースは、裾の一部がほつれていたり、部品が交換されていたりした。それでも、私は購入できたことで十分に満足だった。年末から早速着た。柄もいいし仕立てもいいしで、この服を着ている日はなんだか気分がいい。

    年明け、ランチでイタリアンの店に入った。前回訪れたときは、ラストオーダー前で静かだった。客も少なくて、テーブル席に座れた。ゆったりした時間を過ごせたことが再訪の理由だった。今回はランチタイムの最中で、カウンターに通された。カウンターの中には3人の店員がいる。ドリンクを作る人、皿を洗いつつ柔軟に動く人、料理を作る人。ホールの担当は2人。

    学生時代、飲食店で働いていたから、ランチタイムの忙しさ、切羽詰まった感じは理解できる。だけど、それにしてもぐちゃぐちゃだった。「コーラが切れた。マシンに補充するのが面倒くさいから、お客さんに他のドリンクにしてもらって」とか「電話で予約を受けたの忘れてた。席、確保してない。やばい。そんな予約は受けてないって言って」などの会話を、カウンターの中でかがんで交わしている。客はペアでの来店ばかりで、カウンターの中でのごにょごにょに気づいていない。私はひとりだったし、椅子が高いしで、ずっと見ていた。ドリンク係がソーサーの上にカップ、その上にドリッパー、ペーパーフィルター、コーヒーの粉を置いた。少量の湯で蒸らすことはしなかった。一気に湯を入れ、5分ほど放置した。お湯が多すぎて、コーヒーはソーサーにどばどばとあふれた。

    ふと、「あまり使っていないのに、こんなに壊れているものか?」と、着ているワンピースに思った。毛羽立ちぐあい、わずかな色褪せぐあいも、「あまり使っていない」ではない気がした。

    メルカリのアプリを開いたら、同じワンピースが別の出品者から高値で出品されていた。パスタを待っているあいだに落札した。パスタが来て、食べ始めてからも、カウンターの中の混沌はひどくなっていく。店員は、おしゃれに設計された空間のバックヤードで何かを探していた。目当てのものが見つかったあとも、扉は開けっ放しのままだった。きのこやにんじん、玉ねぎの段ボールが雑に積み上げられ、崩れそうだった。ごまかしにごまかしが重なる。気分が悪くなってきて、半分だけ食べて帰った。

    2枚目のワンピースは状態がいい。商品説明と実際のものに乖離がない。1枚目はやはり使い込まれていた。「愛着をもってたくさん着たものです」と書かれていたほうがよかった。どちらも大切にしようと思う。

  • Perfect Days?

    ある作品の主人公の性質や生活が、私のものとかなり似ているとき。
    作品に触れた人たちが、「こういうふうに生きたい」「視点がおもしろい」「美しい」といった言葉で、おおむね高評価をくだすとき。
    別の選択肢があったわけではなく、こう生きざるを得ないだけなのにと思う。
    私は自分のことや今の生活がわりと好きな一方で、高評価をくだす人たちに嫉妬する。そちら側に行きたいと思う。

  • 気配り探査レーダー

    17時頃に仕事を終えて、さてさて夕飯を作りましょうかねと部屋を出たら、エアコンの電源がONになっていた。我が家は2LDKで、私の部屋の横にリビングと台所がある。リビングのエアコンの風が台所にも向かう構造。夕食にはまだ早いから、私が台所に立つのを見越して、夫がスイッチを入れておいてくれたということだ。

    メニューはあらかじめポトフだと言っていた。彼がポトフをとても楽しみにして、その表現手段としてエアコンを使ったことはわかった。「ぼくはポトフを作れないけれども、エアコンのスイッチを押して台所を暖かくしておくことはできます」というプレゼンテーションである。

    その反面、「君は寒がりなので、部屋が暖かいと嬉しいでしょう。だから事前に暖めておきます」の意図も確実にある。

    私のことを好きだと言って大切にしてくれる人が、創造性を発揮して、気配りの新しい視点を開発してくる。事前のエアコンはそのケースだ。重要なのは、もちろんまず片方が何かを生じさせることなのだけど、もう片方が、それを目ざとくキャッチしてこそ完成することを忘れないでいたい。日々の出来事を当たり前だと思わず、細かく観察して記憶し、定点観測データにする。何かの些細なズレや違いは、おのずと浮かび上がる。それは体調不良かもしれないし、疲労かもしれないし、陽気な気分の変化かもしれない。そんな中に、彼の気配りは混ざっている。