New Essays Every Monday
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目をきらきらさせて
管理職になる準備の知らせが夫に届いた。私は同じ会社の人事部にいたが、今年から制度が変わったらしく、何をするかは謎だ。今年何かをし、来年もまた何かをし、結果管理職に上がるかもしれないし、上がらないかもしれない。
夫が私にくれる褒め言葉の数は5つである。いい、おいしい、好き、すごい、かわいい。夫は会社で人を褒めるのか? 3ヶ月おきの部下との面談で何を話すのか。夕食の席でシミュレーションをもちかけた。
私「今日はよろしくお願いします。今期の実績ですが……」
夫(目をきらきらさせて)「すごい!」
私「ねえ、部下、まだ仕事の話をしてないじゃん」
夫「他にもバリエーションがあるよ」
(目をきらきらさせて)「さっすが!」日常で部下に声をかけるとき、おはよう、おつかれ、いいね、すごい、さすが、の中から言葉を選ぶ未来がありありと見える。面談では、この5つの言葉に具体的な業務の話を巧妙に組み込み、褒め言葉の少なさをカモフラージュすると思う。そのどちらでも、彼にはユーモラスな余裕ときらきらした目がある気がする。いそがしいとなくなりそうだから、残るといいと願う。シミュレーションのときみたいに、けらけら笑い続けられるといい。
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ある日の夜
第1幕
第1場
2LDKの部屋のリビング。18時30分。夫、荷物を携えて登場。
夫「ただいま」
妻、料理の手を止めて台所から登場。
妻「おかえり。どうしてこんなに早いの」
夫「今月は残業しすぎてて。調整さ」
両者、退場。
第2場
夫の部屋。夫、多くの機材に囲まれて、コンピュータをいじっている。
妻、登場。夫、手を止めて体を妻に向ける。
妻「ごはんができたよ。どうしてこんなに早いの」
夫「君に会いたくてね」
妻「合格」
両者、退場。
リビングからポトフの香りと、ワインをグラスに注ぐ音。
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砂の男
sandman
直訳:砂の男
意味:眠りの精、睡魔安部公房が書いたのは『砂の女』で、私に最近しつこくつきまとうのは砂の男。
体のぐあいが戻ったので、ジムで筋トレを始めた。入会直後に足を骨折し、治ったころに別の病院通いになり、行けずにいた。本当にしっかりと体を作りたくて、付属サービスのパーソナルトレーニングを受けている。月曜にパーソナルトレーニング、筋肉の回復を待って木曜にセルフトレーニングというルーティン。しばらくはマシンの正しい使い方を覚える段階である。いちばん軽いウエイトで、10回×2セットだけやっている。
ただ、あまりに運動と無縁な人生だったので、料理で言えば塩こしょう少々くらいの量のトレーニングでも、しっかり筋肉痛が来る。そして眠気も来る。1週間のうち、はつらつと元気なのは筋トレ当日の月曜と金曜の15時までで、残りの5.5日はふにゃふにゃしている。
筋肉がついたら眠くなくなるんだろうか。レベルアップしても眠いんだとしたら、空き時間にトレーニングしているジムのスタッフさんもいつでも眠いということになる。それはそれでおもしろいが。