Writings

New Essays Every Monday

  • 夏の蝶々

    have butterflies in one’s stomach
    直訳:お腹の中に蝶々をもっている
    意味:そわそわして落ち着かない、はらはらする、胸がどきどきする

    大学生のとき、日本人の教授に送った英語のメール。
    単にnervousと書けばよかったところに、have butterflies in my stomachと打った。
    「なんて美しい表現なんでしょう」という感じの返信をもらった。
    権威ある立場の先生だから、この表現を知らないはずはないだろうと思っていた。
    知らなくて純粋に驚いたのか。
    知らないふりをして、初めて見たように言ってくれたのか。

    このところ、そわそわしている。
    仕事のチームメンバーが増えるのだ。
    その人のことが心配なんじゃない。
    私はどちらかというと仕事を作るほう、雇用を生むほうの立場で、私/私たちの仕事に他の人を巻き込んでしまっていいのかしらと思う。
    失敗しても一緒に笑い飛ばしてくれそうな人なのに、緊張してしまう。

    Tシャツを着る。
    裾を少し持ち上げ、空気を含ませる。
    その拍子に、蝶が入ってくる。
    Tシャツと空気の膨らみの中で蝶が動く。
    お腹に羽が当たってくすぐったい。
    深呼吸する。
    裾をもう一度上げると、蝶が外に出て飛んでいく。
    太陽の光を受けて輝く。
    持ち上げたままのTシャツに影が映る。
    勝手にそんなイメージをして、不安に隠れた尊さを見逃さないようにしている。

  • 誇らしい気持ちでいっぱい

    日付が変わる頃、眠剤を飲む。
    夫は別室でとっくに寝入っている。
    私は自分のベッドに座って、眠気が来るのを待つ。
    この時間が好き。
    座ったままで寝ること、途中で起きて横になること、最初からきちんと横になることが、それぞれ1/3の確率。

    おととい、座ったままで寝た日、3時くらいに目が覚めた。
    そしてそのタイミングで、なぜか突然夫が現れた。
    たぶん横に座って、私を抱き寄せた。
    私は彼の腕の中で、瞬時にすぴーっと寝息を立て始めたらしい。
    (普段、私のほうが先に寝るのはありえない)
    そのまましばらくすると、少しずつ体勢が崩れていった。
    私はベッドの上で、寝返りとは違った形で、ぐるんと回っていたらしい。
    出会って以来、トップ3に入るようなかわいさだったらしい。

    私がかわいかった瞬間の不動の1位は、付き合い始めた頃の「電柱ちらり」。
    待ち合わせに遅れた私は、彼の近くまで着いて、電柱に隠れた。
    ここでちらっと顔を見せたら許してくれるかしらん、きゅんとさせちゃうかしらん、んなわけないか、と思いながらそっと顔を出した。
    目が合った。
    彼は想定外にちょろかった。

    数年前のそれに匹敵するようなかわいさを、下心なく表現できた私に、成長を感じる。

  • 5月3週目の日記

    5月15日(月)
    書きためていたブログをまとめて公開。先週の日記を読んで、「のんきに見えるなあ」とにんまり。仕事のことを書き始めると、文章が説明的に寄るのが嫌だ。細かい日記は楽しくない。ジムでクィアアイを観ながらウォーキング。シーズン7は深みが増している。ミュージカル映画のサントラを聞きながらアイロンがけ。

    5月16日(火)
    調子が悪いことや本音を日中に言えずにいたら、帰宅して酔っ払った夫に「どうして僕に言ってくれないの!めらめらぽんぽん!」と叱られた。君は森見登美彦なのか。黒髪の乙女は油を注ぎたくて、「めらめらぽんぽん!」と返した。

    5月17日(水)
    専門家とのミーティングがあって外出。お役所用の書類をAからBに渡すだけなのに、「正しいものをもらって、正しく引き渡せるか」と緊張する。麻薬の密売人はこんな気持ちなんだろう。ついでに歯列矯正の調整。夕方ビアバーに寄り、クラフトビールとポテトフライを頼む。夕焼けを見ながら書き物。

    5月18日(木)
    おもしろそうな舞台の先行予約に申し込む。当たりますように。こういうときだけ全方面の神様に祈る。3週間もった野花にお別れ。花を切らさない家ではないから、花がある風景のほうが特別。いつものルールで、夫と一緒に「ありがとう」と言ってさよならした。

    5月19日(金)
    体調不良で1日スキップ。と書いて「1日分の日記を飛ばした」と解されるのと、「1日中外でスキップして遊んでいた」と解されるのと、どちらの可能性が高いかといえば圧倒的に前者だよな。

    5月20日(土)
    午前中、積ん読を解消するためのタワー型本棚が届く。夕方、仕事の本20冊が届いて、早々に場所を占める。机に向かっている限り、視界に本が入らないのはヘルシーだ。誰かに急かされる環境じゃない。ついひとりで焦ってしまうだけ。ひとつずつ進めていけばいい。

    5月21日(日)
    Netflixで日本の探偵ドラマを観た。ある回で、普段ドラマに出なさそうな有名人が出てきた。「犯人だろう」と思っていたら、犯人だった。別の回で、脇役っぽい女性が前髪を整えるシーンがあった。探偵がそれを見かけるシーンもあった。加えて、不思議そうな顔をした探偵にズームしたシーンも入った。だから「この人、脇役じゃないんだろうな」と思っていたら、やっぱり脇役じゃなかった。