Writings

New Essays Every Monday

  • ten-four

    世界と自分のあいだに
    無線担当者がいるみたい

    好きなものを尋ねられて
    なんだったっけと
    立ち止まる

    好きなものは
    あるんだ
    あるんだけど
    「好き」に
    つながる
    までに
    時間が
    かかる

    1日や1週間が終わる時
    俯瞰して再生したり
    相手の笑顔に気づいたりして
    楽しかったんだと知る

    思い出したことを話したあと
    相手がつまらなそうにした時に
    そうだそうだ、あの出来事には
    「嫌」ってラベルがつけてあったんだと思い出す

    喜怒哀楽好嫌がないわけじゃない
    けど
    あいだにひとりいるんだ

    好きなものを書けばいいとか
    撮ればいいとかいう人の話を聞くたびに
    よくわからないと思っていた
    遠くにある感じがしていた

    好きなものは
    あるんだ
    あるんだけど
    「好き」に
    つながる
    までに
    時間が
    かかる

    時間を
    かければ
    いいんだ

    昨日飲んだビールは
    あんまり好きじゃなかったと
    今気づいた

    *10-4はアメリカのスラングで「了解」の意味。無線通信で使われる略語。

  • 仕立て屋との待ち時間

    Waiting Time with a Tailor

    “The shirts you’d tailored
    make him unbeatable.
    The laundry had been repeating
    to put a note that they got worn out.
    He has pretended not to see
    and kept treasuring them
    as his precious wings.”

    When I finished the last word with thanks,
    he came out of the fitting room.
    Next voyage with new shirts.

    「作ってくださったシャツを着ると、夫はきりっとするんです
    クリーニング屋の人は、『もうシャツが擦り切れています』と、何度もメモに書いてくれていました
    この人は見ないふりをして、宝物の翼みたいに、大切に着ていたんです」

    私が「ありがとうございます」と伝えると
    彼は試着室から出てきた
    次の旅は新しいシャツと共に

  • 私はイカロスでした

    文芸誌Paris Reviewのメールマガジンが、毎日詩を届けてくれる。過去に誌上に載った詩の中から、少しずつ。


    夏になると思い出す詩だ。

    I Was Icarus
    by Ulrich Berkes

    It must have been a hot summer back then, when I could fly.
    I was maybe seventeen.
    My room was on the ground floor, facing the back.
    Night after night I lay on the bed and imagined myself flying.
    That was a strain, I tell you.
    Usually I’d lie perfectly still for an hour before my body rose from the bed.
    Very slowly I rose, until I hovered a meter or so off the floor.
    Then with swimming strokes I propelled myself through the open window.
    Outside I flew higher and higher, over the garden fence, over the clothes-lines, over the roof tops and the apple-trees on the outskirts of town.
    The entire flight I felt the wind’s touch on my skin,
    and sometimes I heard voices, calling.

    —Translated by George Kane

    Paris Review, Issue no. 106 (Spring 1988)

    (もともとはおそらくドイツ語で、英訳をKane氏がおこなった)

    日本語訳 by 紺

    私が飛べたのは、きっと暑い夏だったのでしょう
    たぶん17歳でした
    私の部屋は1階で、家の裏側に面していました
    毎晩ベッドに横たわり、自分が飛んでいるのを想像しました
    それは本当に緊張することでした
    ベッドから体が起き上がるまで、1時間はじっと横になっていました
    ゆっくりと起き上がり、床から1メートルほど浮いた感じになりました
    それから泳ぐようにして、開いた窓から飛び出しました
    庭のフェンスを越え、物干しロープを越え、屋根の上を越え、町はずれのりんごの木を越え、どんどん高く飛んでいきました
    飛んでいるあいだずっと、風が肌に触れるのを感じ
    時々、呼ぶ声が聞こえました