Writings

New Essays Every Monday

  • 私(デザイナー)の仕事の仕方:
    先方「1ヶ月でお願いします」
    私「わかりました」
    1週間で7割を作る
    2週間で細部を詰める
    残りの1週間で見なおし、納期少し前~締め切り通りに提出する。

    夫(ソフトウェアエンジニア)の仕事の仕方:
    半年くらい先を予期して、必要そうなものを作っておく
    ~~~時間の経過~~~
    上司など「○○を作ってほしいんだけど」
    夫「わかりました」
     (もう作ってあるとは言わずに)「納期はどれくらいですか」
    上司など「1週間くらいかな」
    夫「わかりました」
    とはいえもう作ってある。微調整などはする。
    その間に予期できる別のものに着手する。
    納期前倒し、例えば5日で提出する。
    夫(あたかも直近で苦労して作ったかのように)「できました」
    上司など「速いね、ありがとう!」→評価が上がる。

    夫のやり方を初めて聞いたとき、「はああああああああああ?!」と声が出た。予期して作っておくって何だ。

  • 正しい言葉遣いも大切だけど、言葉を新しくつくったり遊んだりするのも楽しい。フィールドワークで抽出された我が家の用語集と、浮かび上がった詩。

    Family lexicon is:
    – a bundle of old love letters
    – important energy
    – regular exercise
    – playing in a particular style
    – to relax completely and enjoy
    – to understand or respect other people’s ideas and behaviour
    – supporting changes in some systems that give people more freedom

    ファミリーレキシコンは
    何度も読み返したラブレターの束
    大切なエネルギー
    いつもやってるエクササイズ
    こだわりの遊び
    うんとくつろいで楽しむこと
    相手の考えや行動を理解すること、敬うこと
    もっと自由なシステムに変えていくこと

    by 紺(Longman Active Study Dictionary 5th edition、 “lexicon”掲載ページ、見開きで見つけた単語から作成(写真の蛍光ペン部分))

    オースティン・クレオンさんちのオーウェンくん(2019年時点で6歳)は、お父さんの影響で、自分で絵を描いたり、音楽やzineをつくったりしている。かわいいので、私も新作を楽しみにしている。このツイートにも「いいね」した。

    訳すなら、「 “Loveheart”は今や我が家の定番の言葉です」。 “lexicon”は、「ある特定の個人・領域などにおける用語集」のこと。本屋で買える「正式な辞書」には載っていないけど、オーウェンくんが母の日やバレンタインで使うので「オースティン家の辞書」には載っている言葉だという意味。

    「ファミリーレキシコン」、我が家(2人暮らし)ではどうだろうとフィールドワークを始めた。普段通りの生活の中に観察者の自分を置き、会話の分析と記録を続けた。

    あまり意識していなかったが、我が家は言葉の積極的な開発と便乗が推奨される環境である。新しい単語や意味が意図的に、事故的に、偶然にひょいひょい生まれ、流行り、廃れていく。音や意味の変化を経て定着に至ったものもある。書き言葉よりも話し言葉のほうが発達している。

    うちのファミリーレキシコン
    (各項目の最後は例文)

    こてね
    仕事がうまくいった、楽しいことがあったなどで精神的に満たされている、ほどよい身体的疲労がある、おいしいごはんを食べる、酒を一定量以上飲む、という条件がそろった上で、風呂に入る前にこてんと寝てしまうこと。ぎりぎりまで「お風呂には入るよ」「横になってるだけで眠ってない」とつぶやき続け、最終的には相手に嘘をつく。幸せそうな顔に免じて、ごくたまにであれば許される行為。「こてんね」からの音変化。

    「昨日はこてねしてごめん。ほんとうに反省してる」

    ぽてね
    夫が、山盛りのポテトサラダを食べたあと、こてねに至ること。ポテトサラダはカロリーが高いため、こてねしないことを条件に提供されることが多く、こてねと違って重罪である。

    「ぽてねするって、人としてどうなの?」

    解体/解除
    妻が洗ってカゴに積んだ食器を、夫が元の場所に戻すこと。心ここにあらずで気が急いている場合、いつもの場所とは違う場所に積まれた皿で、ピサの斜塔が建つ。2種類あるのは、初回の聞き間違いによる。どちらも譲らずどちらも定着。

    「これつくってる間に、解体しといてくれないかな」
    「わかった、解除する!」

    接触不良
    道具、とりわけ台所用品が妻の手のサイズや目的、作業動線に合わないこと。

    「卵焼き器、接触不良だったんだけど、小さいものに変えたらめっちゃ使いやすくて楽しくなったーーー!!」

    人気者
    風邪っぴき、病人。ウイルスからモテモテの状態。

    「だから言ったじゃん、寒い格好しちゃだめだって」
    「ほら、ぼく人気者だから仕方ないよ」

    自由研究
    きらめくアイデアに心を踊らせ、夜や週末などのあるひとかたまりの時間、自室にこもって実験やものづくりにいそしむこと。夫のは今仕事で必要なことの数歩先のこと。あるいは関係があるかはわからないが、すごい発明に思えるもの。妻のは書きもの調べもの。専門を別にしながらも、発生したエネルギーには敬意を払いたいので、研究終了後の会話には「おうむ返し」のルールを採用している。

    「今日はサーバの自由研究をしたんだ!(中略)すごいでしょ!」
    「サーバの自由研究をしたんだね!それはすごいね!」
    「そう思うよねー!うんうん」
    (ここまでセット)

    刺す
    夫が、自分のヒゲが伸びているのをわかっていて、顔を妻に近づけようとすること。脅し文句だが、対する返答も脅し文句になることが多い。

    「いっしょに行ってくれなきゃ刺すよ」
    「夕飯出さないよ」

    業務委託
    相手の得意なことを任せること。キッチンとネットワークは年間包括契約、それ以外は個別契約。

    「これ、業務委託したいんだけど」

    パスタマイスター
    夫の肩書きのひとつ。役職が人を育てる。お湯を沸かし、塩と麺を計量し、鍋に入れ、タイマーをセットし、茹で、ざるにあげる一連の流れを担当する高度技術専門職。ソースやサラダは専門外のため、任務終了後はカトラリー設置部門へ異動。

    「パスタマイスター、そろそろ出勤のお時間です」

    同期
    街の屋外ディスプレイでスーモの広告が流れ始めた瞬間に、妻がMacBookに繋がれたiPhoneのように、スーモの歌を口ずさみ始めること。

    「スモスモスモスモスモスモスーモ♪」
    「同期したね」

    キーステーション
    旅行先で起点にする駅。近くに宿泊することが多い。

    「今回の旅は広島駅をキーステーションにお送りしましょう」

    クスリをやる
    妻が自分の処方薬を無印良品のピルケース(6日分)に分けること。

    「お皿洗ってくれる?私クスリやるから」
    「おっけー」

    クスリを盛る
    妻が夫にサプリメントを渡すこと。夫は疲れがひどいときだけ飲むので、妻が用法用量を守って渡す。

    「昨日待ってたのに。クスリ盛ってくれるの」
    「ごめん、忘れてた」

    沈む
    お風呂の湯船に浸かるという意味。妻の言い間違いから。

    「今日お風呂に沈んだの?」
    「うん、少し」
    「しっかり沈んでね」

    潜入
    地下も含めて何階もあるような大きな建物に2人で入る場合に、夫が使う。悪いことをしていないのに悪いことをしている気持ちになる。

    「さあ着いた。潜入するよ」

    調査
    店で品物を見てまわること。「潜入」と合わせ、スパイ色が強くなる理由は不明。

    「今日はあのパン屋を調査しなきゃ」

    毎日言葉遊びをしているような、即興芝居をけしかけているような、機転を試しあっているような感じだな。負けないぞ。

  • 肉屋に行ったら牛肉100%のミンチがあった。スーパーにはないので珍しい。これでハンバーグを作ろうと購入し、夫にその旨LINEした。彼は18:09に「これからー」と返信し、すみやかに帰ってきた。私たちのお気に入りの肉屋の、初めて食べる牛100ハンバーグ。よっぽど楽しみだったんだろうと思った。

    20:00過ぎ、郵便局の人が来た。我が家はメゾネットの2階なので、階段の上り下りがある。階段を上り切って、電気を消し、リビングのドアを開けた彼の顔は輝いていた。にやけている。「ぼくのパーツ♪」と言って荷物を自室に運んだ。

    早めの帰宅を促したのは、私のハンバーグじゃない。1日くらい前に、先約が入っていた。こういうことはよくある。本当によくある。帰ってきて表情が明るいから、料理を楽しみにしてたんだろう、私に会いたかったのかなと推測していると、ピンポーンと鳴って、コンピュータのパーツが届く。

    食後「今日は何の日?」とクイズを出した。彼はうーんうーんうーんと悩んだあとに、目をそらし、「ホワイトデー」と言った。そのあと頭を突きだしてきて、撫でて褒めるように要求してきた、「今日がホワイトデーだと知っていたこと」に関して。「えらい!」とがしがし撫でた。

    とはいえ遊んでみただけで、正直お返しを期待していない。言葉や言葉にならないものの贈り合いは毎日やっているわけだし、バレンタインデーのディナーを作って贈ったらご機嫌に食べてくれたわけだし。今日もいい日だったなーと自分の部屋に戻り、日課の勉強をした。

    21:30頃、彼は「じゃーん」と言いながら私の部屋に現れた。黒い箱を持っている。部屋の照明を落としているのでよく見えない。近づくと、いいドライヤーだとわかった。特にラッピングなし。ふたを開けたところにセロハンテープで貼ったメモがある。「きれいな髪でぼくをドキドキさせて」と書かれていた。

    「ぼくのパーツ」と言っていたことも、ホワイトデーうろおぼえも演技だった。しっかり用意していたのだ。数年間、ホワイトデーのお返しなんてなかったのにどうした、と尋ねたら、「毎年贈っていたらサプライズにならない」と返ってきた。何も贈ってこなかったこの数年は、実は戦略的な沈黙だったのだ。なんかよくわからないけど、長期的視野が壮大。

    お風呂から上がったあと、早速使った。ベッドに座って自分の髪を乾かそうとしたら、彼がひざまくらになって乗ってきた。彼の髪は短いのでもう乾きかけだったけど、新しいドライヤーで乾かしてあげた。「ちゅるちゅるになった!」と喜んでいた。先にその台詞を言うのは私の役な気がしたけれども、もういい。ホワイトデーにお返しを選べたこと、うまくカモフラージュできたこと、サプライズできたこと、いいマシンを選べたこと、私が喜んでいることが総じて嬉しそうだった。

    夫婦で生活していて、どちらか一方だけがよろこぶことは、我が家ではあまりない気がする。

  • スーパーに入るなり、いちごをカゴに入れた。300円の紅ほっぺ。旬だから軽率に買う。鮮魚売場であさりを見つける。ザルに載って塩水に浸かっている。「あさりを食べたい」よりも、「砂抜きしたい」が勝つ日がある。店員さんを呼んで、活きのいいやつをもらう。肉売場では、しゃぶしゃぶ肉が特売だ。薄いピンクの豚肉。ひらひら。明日、しょうが焼きにしよう。無脂肪のビヒタスヨーグルトも2つつかむ。

    帰り道、平日の14時。晴れた日。人は歩いてない。車も通らない。風が吹いて、涙が出てきた。ダウンの袖からトレーナーの袖を出す。XSでも長くて折っているのを伸ばす。目頭を拭く。激しくなったので、道路の端に買いもの袋を置き、今度は両手で拭く。どうして泣くのか。早めに仕事が終わったからといって、こんな時間に買いものしているうしろめたさか。人と同じリズムで生きられないさみしさか。いちごを軽率に買った、あるいは本来の目的外であさりを買った罪悪感か。他の些細なあれこれの蓄積か。ただ単に少し疲れているのか。そのすべてか。花粉症のせいにしたいけど、花粉症じゃない。私には別のアレルギーがあって、通年で薬を飲んでいる。

    向かいからパトカーがやって来るのが見えた。涙はそのままに、急いで買いもの袋をもち、角を曲がった。

  • 歩きながら左右の目を交互に閉じていた。「やっぱり右の度数が合ってないな。いつコンタクト屋に行くかな」と考えていたら、目が合った交通整理のおじいさんにウインクされた。距離のあるウインクではなく、すれ違いざまの、顔を少しこちらに傾けたうえでのウインク。にんまり笑っていて、私も笑った。あれはウインクし慣れている。危ない危ないと思いながら、ときめきを抑えた。

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