Writings

New Essays Every Monday

  • 年が明けた瞬間、いよいよ受験生だと思うと急に怖くなった。社会人入試だから、正直いつ受けてもよく、それはつまり落ちたって健康な限り何度もチャンスはあるということなのだけど、一旦来年度の受験を決めているので、わかりやすいカウントダウンが始まると焦る。大学院に受かったとして、その先もメンタルの管理は必要。だから今から準備しておくとよいと思った。

    Amazonで本を探した。勉強の不安に関する本は意外と見つからなかった。仕事や人間関係、気にしすぎな性格向けのものが多かった。

    これではない、これでもない、というのを繰り返していると、なんとなく、こういう感じのこと、がぼんやり浮かび上がってくる。よく考えてみると、別に新年になって急に生まれた問題ではなく、昔にもあった、既視感のあるものだった。ということは、家に本があるはずだ。何かをつかもうと格闘した自分の残像が本棚に眠っているはず。

    今、この瞬間に集中せよ。未来や過去に目を向けると不安になる。目標をもち、計画を立て、日々従っていたら辿り着ける。読書や学習などの精神的活動に没頭できる人はしあわせである。

    気づかせてくれたのはショーペンハウアーとリラックマ。特に、私はかねてからリラックマを尊敬していて、本は全て持っている。今になって彼の言葉の数々が腹落ちした。夫の部屋にあった、夫のリラックマのぬいぐるみを奪い、私の部屋に置くことにした。勉強の合間の休憩に抱きしめる。ふわふわのお腹や耳をなでる。今、ここ、を思い出すリマインダー。

    勉強に夢中になれるのはしあわせだ。少し休んで、またしあわせのおかわりをする。

  • Time Walk

    私と夫は実家に帰省しない。年末年始は掃除を少しして、かずのことカニとお雑煮を食べるだけ。近所のスーパーが休むから、そのぶん買い込んで、冷蔵庫と冷凍庫がぱんぱんになる時期。ひととおり食べ終えたら1月4日。

    いつもどおり散歩に行こうとしたら、彼がついてくると言った。じゃあ、あのショッピングモールに行ってみるかね。そうしよう。車の行き来は多いけど、歩道には人がいない。プレイヤーの音量を上げ、音楽をかけて口ずさむ。Boni Pueriという、チェコの少年合唱団の曲。キーが高い。ずっとまえ、私が歌えるようになるまで延々と聞かされていた彼は、「あ、ラーメン食べたいって言ってる歌だね」と茶化す。違うってば。

    Morning breeze blowing my hair into single piece
    Take me away
    Thousand days flying by my side
    All for us
    朝のそよ風が私の髪をひとつにまとめる
    連れ去ってほしい
    千の日が私のそばを飛んでいく
    すべては私たちのために

    Boni Pueri, Time Walk

    土手で、母親と幼い姉妹が凧を上げていた。お姉ちゃんが凧の本体をもつ。妹ちゃんが紐を枯れ草に絡ませて遊ぶ。母親が叱る。健脚の老夫婦に追い越される。

    穏やかな光を浴びて、ゆっくり歩いた。彼は4つ年上で、私より先を生きていたのに、今はいっしょにいる。カメラを取り出して私の写真を撮ろうとしたので、四方にすばやく動いて邪魔してやる。

    If I ever walk in time
    We will together as one
    もし私が時間の中を自由に歩くなら
    私たちはひとつになれるね

    ショッピングモールには人がたくさんいた。初めての場所だったから、慣れた動きの人たちに翻弄される。フードコートで何か食べたいものを探して、なくて、食品売り場で何か買おうとして、停滞している空気に気持ちが悪くなってやめた。

    行きとは別の道を歩いて、別のスーパーに行く。鍋の材料を買った。歩きすぎたぶん、夕食は簡単なものがいい。

    駅のホームに乗りたい電車が到着する。特急電車の通過待ちをする。いちごポッキーを食べる。特急が到着したら、私たちが乗っていた電車の人たちが一斉に立ち上がってそっちに移動した。太陽が沈んでいく。腕を広げてお風呂に浸かっているみたいな空が広がって、私もお風呂に入りたくなる。もうすぐヤマトが来る時間だ。

    If sunset was beautiful enough
    To share with you for all day
    Oh moonlight light up the night enough I can not see for all day
    夕焼けがじゅうぶんに美しかったら、一日中あなたと分かち合える
    月明かりが夜をたっぷり照らしてくれたら、何も見えないくらい

    彼が「今日は紺ちゃんとびっくりドンキーを見た」と言った。そうだ、私たちはびっくりドンキーの店を見た。私は初めて見た。「次は入ってみよう」と言われて、「うん、次は入ってみよう」と言った。私たちはびっくりドンキーでごはんを食べていないのに、店がそこにあることをいっしょに確認しただけなのに、ふたりともなぜか得意げで、満たされていた。

    All the happy times of ours
    Shine the light through gloomy night
    すべての幸せな時間が
    暗い夜を照らす

    いっしょにいるのがうまくなった。洒落た言葉や物や店がなくても、私たちは私たちでいられる。

    Time has gone I see you
    Looking back to the good times
    See you again flying tonight
    Until the time none we can do
    時は過ぎ去り、私はあなたを見る
    楽しかった日々を振り返る
    今夜また時間の中を飛んで会いましょう
    私たちが何もできなくなるその時まで

  • 1 好きな具材だけ買ってきて、個々の丸皿に小さく盛りつけるだけのおせち。いくらはお雑煮にものせる。

    2 YAECAのワンピースを買い足し。長く大切に着ようと思ってる。

    3 日が沈む前の土手を歩くときのSpotifyプレイリスト。ピアノの曲が多め。考えごとよりもゆるい、頭の中の拡散が進む。

    4 おうちでスペイン料理パーティー。パエリアのエビスープは2回分作れるので、自動的に翌日もパエリア。

    5 でる順パス単、英検1級、英検準1級、いずれも第4版と第5版。つまり4冊、何回も繰り返して完走。

    6 今年もたくさん聴いた、Passenger, Beautiful Birds。

    7 アユーラの緑の入浴剤。袋に入っているほう。このお湯に浸かっていると、温泉に行きたい気分がなくなってよい。

    8 ジャンポールエヴァンのチョコレートタブレット、ノシべ マダガスカル。ブラックベリーの香りに、ブルーベリーとカカオの余韻。1ヵ月くらいかけて、ちびちび食べるのが好き。

    9 読み終わらないまま近くに置いてある、Ted Chiang, “Stories of Your Life and Others”。夫に勧められたので読みたいけれど、SFは一気に読まないと設定や何やらを忘れてしまう。

    10 STAUBの鍋で作るポトフ。キャベツ、にんじん、メークイン、ウインナー。

    11 花の寿命が来たとき、「ありがとう」と言うか思うかして別れる。夫は「ぺこり」と言いながら頭を下げる。

    12 ミスドになりたくて揚げまくったオールドファッション。半分はチョコをかけた。お店より小さめで、ラップして冷凍。ちょっとだけ食べたいときにぴったり。

    13 Steven Millhauser, A Haunted House Story。2023年8月に出た本の中の短編。2024年に読んだ作品の中でいちばん好き。まだ翻訳は出ないね。

    14 バレンタイン。ハート形にくりぬいたハムを散りばめたキッシュ、たこ・パプリカ・きゅうりを合わせたマリネ、甘さ控えめに焼いたガトーショコラ、白ワインと赤ワイン。

    15 花屋でミモザを見つけて、包んでもらって、帰って飾る時間。春の訪れを感じる。

    16 体調が安定しなくて、ジムに行けない日々。動けるようになりたいと強く思う。

    17 三谷幸喜のお芝居、オデッサ。英語と日本語混在の三人芝居。おもしろかった。DVD化してほしいよ。

    18 ひなまつりのばらちらし、はまぐりのお吸いもの、あまおう。私が主役なのに夫のほうがにっこにこで写真に入り込んでくる。

    19 ホワイトデーにいいドライヤーをもらった。夫がこっそり美容師さんに聞いて選んでくれた。

    20 トゥベールの、クリスタルエッセンス、ホワイトニングローション、ナノエマルジョンディープ、レチノショットの組み合わせ。つやつや。

    21 VERY GOOD STUDENTとして、家庭教師の先生の確定申告を手伝う。よろこばれる。

    22 ジョージ・ソーンダーズが2013年にシラキュース大学の卒業式でおこなったスピーチ。スピーチの英語は音読が好き。彼の言うように、やさしくなりたい。

    23 バレットジャーナルのハビットトラッカーの形を変更。

    24 理論社の世界ショートセレクションを買い揃える。全集系は市場に出回る期間が比較的短いので、多少無理しても買う。

    25 旬のいちご。

    26 メゾンクリスチャンディオールの香水、テカシミア。

    27 大学院に進学することに決めた。英米文学専攻。

    28 「あなたの英語は自然でいいね」と言われたこと。

    29 院試対策に何をしたらいいか、各所で情報収集。

    30 会社にいたころの後輩とごはん。夫婦で短歌に夢中という話を聞いて顔がほころぶ。

    31 iPadのホーム画面をカスタマイズ。緑をベースにして、好きな格言も表示させた。

    32 好きな格言① 
    “To change one’s life: Start immediately. Do it flamboyantly. No exceptions.”
    「人生を変えるには:すぐに始める。大胆にやる。例外なし」 – William James

    33 好きな格言②
    “What is now proved was once only imagined.”
    「今証明されていることは、かつては想像に過ぎなかった」- William Blake

    34 ポートランドの本屋からNorton Anthology of American Literatureが2冊届き、読み始める。

    35 夫と一緒に作って、「これはぼくのぶんだ」「いいや私のぶんだ」と、競って食べたぎょうざ。

    36 やる気があってもなくても勉強する。何かをうまくやれた日も、うまくできなかった日も、価値判断せずに流し、淡々と生きる日々。

    37 夜、先に眠気が来る夫を抱きしめて、「また明日会おうね」と言う。朝、「おはよー、ぎゅ~しよー」と言われて抱き合う。頭を撫でられる。タイムラグのある返答。

    38 わからないゆえの書き込みよりも、心が動いたゆえの書き込みが増えたこと。

    39 hiorieのタオルを新調。毛羽立たなくて大好き。

    40 大学院の説明会。全体説明のあと、各専攻の部屋で個別相談会。先生がさばさばしている。少人数ゆえに懸念していたことを、お話してクリアにできた。帰り際、丁寧に挨拶してくれたのを見逃さなかった。

    41 クレジットカードの更新後、早速失くして再発行。さすが日本だ。失くしたカードは警察に届けられていた。

    42 ドラマの「アンメット」で、ミヤビ先生のボールペンがパーカーのジョッターだった。懐かしくなって、昔買ったものをまた使うようになる。黒の太字。するする書ける。

    43 おいしいフォカッチャを焼けるようになった。えっへん。

    44 Nortonで読んだ作品の概要や感想が膨大な量になり、扱い切れなくなる。Notionでデータベース化。

    45 コーヒーも紅茶も飲まなくなる。お金がかからなくてよい。

    46 ごほうびの設計よりも、自分を妨げているものを見つけて取り除く力が発達しているみたい。ジムが嫌な時期があった。トレーニング前、室内履きのスニーカーを袋から取り出して履くまでに時間がかかること。これがうんざりポイントだと気づいた。袋を大きな巾着に、スニーカーをスリッポンタイプに変えたら、ジムが楽しくなった。こういう小さな退治の積み重ね。仮説と検証の繰り返し。

    47 私の言葉を好きだと言ってくださる人がいて、うれしい。

    48 ルセラフィムのドキュメンタリーをYouTubeで観る。人と人が出会って仲間になって、一緒に生活したり目標を共有したりできるのは幸せなこと。

    49 ScopeでKivi キャンドルホルダー リネン色を買う。キャンドルの、オレンジの光が好き。

    50 夜、台所で少しイライラしていたとき、「私が何を言ってもしばらく『わかった』『すごい』とだけ言ってください」と言ったら、「わかった、ぼくすごい」と返して一瞬で私のイラつきをふっ飛ばした夫。

    51 いかに孤独でいるか。この町で、夫といて、それでもひとりでいられるように。

    52 葉っぱ柄のカーテンを買った。計測するのが面倒で後回し後回しにしていたけど、えいやっと測って注文して、届いたらあっというま。

    53 2ヶ月かけて、Nortonの勉強の型をつくった。

    54 週末の昼、ホットプレートで作る、明太もちチーズのもんじゃ焼き。

    55 書けてよかったエッセイ「荷を解く」https://konkawase.com/?p=1020

    56 元気が出ない時期に現れる小さな知的好奇心。夜空、雲のあいだから見える北極星のよう。

    57 3種類の目薬。しゃきっと用、うるおい用、アレルギー用。

    58 日本の古本屋。いつもありがとうございます。

    59 白湯、ラジオ体操第1、万年筆でモーニングページ、のルーティーン。

    60 大好きな部屋。照明がオレンジ色の図書館、いつまでも座っていられるカフェのソファ席、機動性に優れるオフィス、森林浴ができる場所をかけあわせたイメージ。

    61 ルセラフィムの新しいミニアルバム、CRAZY。単語が持つ2つの意味、「狂っている」と「夢中」が両方使われているのが好き。「夢中になれるって羨ましいこと」https://konkawase.com/?p=1075

    62 ひとりで外食に行けない、ふたりで行っても緊張しちゃう夫が、家での外食ごっこで「やっぱりこれ好き」とか「次はあれと合わせようよ」と饒舌になりながらもりもり食べてくれること。

    63 ミュージカルRENT。観に行けてほんとうによかった。「今しかない この瞬間がすべて 愛を信じないと恐怖に負ける」

    64 大阪と広島旅行。「旅のスナップショット」https://konkawase.com/?p=1112

    65 私を支えてくれる強力なシステム、ハビットトラッカー。

    66 睡眠障害が治った!!!!!

    67 夫の浮気。夏から始まり、秋を経て、すっかりねんごろでほほえましい。「浮気の調書」https://konkawase.com/?p=1056

    68 “Be regular and orderly in your life, so that you may be violent and original in your work.”
    「規則正しく、秩序のある生活を送ろう。作品の中で猛烈さと創意を発揮できるように」 – Gustave Flaubert

    69 映画「ラストマイル」。「日本支社長が大名行列せずに物流センターに来るってすごいよなあ」「ロケ地協力のトラスコ中山、かっこいい」という視点で見た。

    70 書けてよかったエッセイ「いただきますぺんぺん」https://konkawase.com/?p=1146

    71 学校や会社で関わるすべての人と仲良くなろうとする必要なんてなかったと気づいたこと。同期や同僚という言葉でくくられる以上、よい構成員にならなければと思っていたけど、間違っていた。機嫌を取ったり評価を気にしたり、うまく振る舞えなくて落ち込んだりしなくてよかった。

    72 味の素の冷凍エビピラフに別途冷凍エビ1パックを追加して食べるという豪遊。

    73 Norton Anthology of American Literature2冊を読み終えた。がんばった。

    74 Norton Anthology of English Literature2冊を紀伊國屋書店で注文。紀伊國屋が品質を確認してから送ってくれる仕組みで安心。

    75 たまには気を抜く、ちょっと雑にやるって大切だなあという気づき。

    76 無印良品のらくがき帳。がしがし使えて好き。

    77 ジャック・ロンドン「世界が若かったころ」、「命の掟」。

    78 ルメッカ。痛いけど、肌がぴかぴかになる。

    79 お酒を飲まなくなった。おいしいと感じなくなったし、動悸がする。代わりに炭酸水を飲んでいる。節約できてよい。

    80 アクティビティトラッカー、vivosmart 5。夫の誕生日に買うついでに自分のぶんも。

    81 リチャード・ライト『ブラック・ボーイ』。この人の文章は英語でも日本語訳でも好き。

    82 「好きなことを夢中になって楽しめる。それが絶対になくしてはいけない君の素敵なところだ」と、真面目な顔で言ってくれる夫と家庭教師の先生。

    83 夫から譲り受けた音楽プレイヤー、KENWOOD Media Keg。私の手は小さくて、スマホが大きくて重い。散歩中に簡単に音楽を聴けるのはうれしい。

    84 Media Keg用に買い足した、Etymotic ReaserchのイヤフォンER3SE。私は充電が苦手なので、いつまでも有線派。

    85 アーサー・ミラーの戯曲、「セールスマンの死」。

    86 歯列矯正のワイヤーブラケットがようやくはずれた。2年!素直に動く歯だと褒められた。毎月通うのが楽しみな歯医者さん。

    87 uFitのソイプロテイン黒糖きな粉味に、黒ごまラテのパウダーを混ぜたもの。おいしい。

    88 延々と悩んだあげく、Liberty Faber Diary 2025を購入。日常が詩と共にありますように。使い始めるのが楽しみ。

    89 運動習慣のペースがつかめた。1週間に2回ジム。回数ではなく、重量の負荷を上げた日の翌日は休むこと。

    90 ukaのハンドクリームとネイルオイル、18:30。手がふわふわになって、いい香り。

    91 てんかんの薬を飲み始めた。体調が安定し始めた。次はいつ悪くなるのかな、という不安が減った。地味だけど、これは希望。

    92 「あなたは光のようで、きらきらしていて、時にぎらぎらまぶしくて、でも自分でそれに全然気がついてなくて、どうでもいい人のどうでもいい言葉を気にして元気がなくなる。あなたはそのままでだいじょうぶ」という感じの言葉をかけてもらったこと。

    93 完璧主義に陥って自分を責めないこと。

    94 目の前の小さな進捗がその日にできた最大限で、あとから振り返ったときに大切なピースになっているだろうと信じること。

    95 たこと塩麹のアヒージョ。いかもえびもおいしい。

    96 たくさん買った本。特に光文社古典新訳文庫と、岩波文庫赤帯。

    97 ロイヒトトゥルムのノート。バレットジャーナルはハードカバー、文学史はソフトカバーに。

    98 ポモドーロのタイマーは、60分単位が今の生活に合っている。

    99 ツイートやブログを読んでくださった方々。

    100 健やかなる日も病める日もそばにいてくれる夫。

    The original idea is “100 things that made my year” by Austin Kleon

    私の1年を彩った100のこと(2023)https://konkawase.com/?p=156

  • 朝食におむすびを握った。わかめごはんのもとを混ぜ込んだやつ。炊き立てのごはんをまずお弁当箱にとりわけ、その残りを朝食にする。からあげとか、うまくいった卵焼きがおかずの場合、お弁当のごはんをはりきりたくなり、そのしわ寄せが朝食に行く。この日もそんな朝だった。なんか、ごはん、少ない気がする。気のせいか。たぶん気のせいだ。

    おむすびはぎゅっと握ると小さくなる。うん、やっぱりごはんが足りなかったな。小さいや。でも何を小さいとするかは人それぞれなので、夫に委ねることにする。「ちょっと小さいかもしれない」と言って手渡す。夫は「ん」と言った。そして「海苔を巻く」と言った。

    巻き寿司用の海苔を半分に切って、小さなわかめごはんおむすびを包んだ。「よし」と言った。あたかもその海苔の大きさが、重さが、おむすびの小ささをカバーするかのように。そこに大きなおむすびがあるみたいに、彼は口を大きく開けて海苔にかぶりついた。

    残っているごはんは限られている。彼のおむすびを大きくするには私のおむすびを小さくするしかない。彼はそれをよくわかっていて、海苔を巻き、じゅうぶんに大きなおむすびを腹に入れたように「ごちそうさま」と言った。

    たいした量を食べてないくせに、「わかめごはんっておいしいよね」と言って出かけて行った。

  • 2020年10月11日時点のウィッシュリストの残りが、「おいしいクレープを食べる」だけになった。言語化や細分化が得意なので、最初から達成しやすいようにリストアップしているとはいえ、気づけば残りひとつというのは感慨深い。

    書いた当時の「おいしいクレープを食べる」は、「早くコロナ禍が明けてほしい。クレープ屋さんに行きたい」くらいのものだったと思う。コロナと共に生きる今、「おいしいクレープを食べる」は難易度が上がった。

    引き続きコロナを警戒する、外食が苦手な夫とお店に行けたらいい。バターだけで仕上げましたみたいな洒落たやつではなくて、かといってどこにでも売っているクリームもりもりのものでもなくて。お店じゃないと焼けない薄くて広い生地を折りたたんで、フルーツとクリームとソースをちょうどよく盛りつけてほしい。インターネットでお店を探したら、映え重視のところばかりで、行く前から胃もたれする。実直なクレープが食べたい。おいしいクレープを食べたい。テイクアウトでいっしょに食べたい。

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